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「コロナ対応」の先を見据えて 未来の働き方を考える

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 コロナ禍をきっかけに、日本企業の働き方も大きく変わってきました。オンライン会議や在宅勤務が普及するなど選択肢は広がりましたが、そろそろ単なる「コロナ対応」を超えて、次のステージを目指す時期に来ています。今回は、ウェブ会議ツールの代名詞ともいえるZoomを提供するZVC Japanの佐賀文宣社長をお迎えし、自由で柔軟な働き方を進めていく意義を改めて振り返るとともに、未来の働き方について考えます。


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― まずはZVC Japanとアステリアとの関係を教えてください。

平野洋一郎(以下、平野):コロナ前からアステリアは、Zoomを社外向けのオンライン会議ツールとして使っていました。コロナ禍に入ってからは、社内外問わず業務に欠かせないツールとなっています。

佐賀文宣(以下、佐賀):ありがとうございます。今年に入ってからは「未来の働き方を考える調査」でもご一緒しました。アステリア、ZVC Japan、レノボ・ジャパン、サイボウズと、より便利な働き方の実現を目指す4社合同で調査を実施したものです。4月にはオンラインで発表も行いましたが、平野社長とリアルでお会いするのは今日が初めてで、大変楽しみにしておりました。

― やはり日本の働き方もコロナ禍で大きく変わりましたか。

佐賀:劇的に変わりました。「未来の働き方を考える調査」でも、テレワークの実施状況は、コロナ禍前の7.1%から2020~2021年の緊急事態宣言中には29.5%と4倍以上に上がっています※1
 それでも見方を変えれば、まだ約30%に過ぎないともいえます。私たちのミッションは、シームレスで安全なビデオコミュニケーションを提供すること。離れていてもシームレスにリッチなコミュニケーションができるようなテクノロジーをさらに追求していきたいと考えています。

平野:コロナ禍をきっかけに、従来はもっと長くかかると思われていた変化が一気に加速しました。しかし、大切なのはこれからです。コロナが落ち着いたからといって、働き方を元に戻してはいけないと考えています。

― アステリアでは早くから働き方改革に取り組んできました。

平野:最初は2011年、東日本大震災をきっかけに全社テレワークの環境を整えました。交通機関などが混乱する中、まずは1週間出社禁止にしましたが、当時はまだ出社しないとできない業務も多かったのが実情です。そこからタブレットを配付したり、情報共有の仕組みを作ったり、半年をかけてテレワークを行いやすくするための環境を整備しました。
 有事の際のBCP(事業継続計画)として始めたものでしたが、いざというときに使えないのでは意味がありません。せっかく環境を整えたので普段から使っていこうと、2013年からは個々の事情に合わせてテレワークをしてよいことにしました。さらに、2015年に猛暑テレワーク、2016年には豪雪テレワークを導入。それと並行して、日常的に利用する業務システムをクラウド化し、リモート環境でも社員の活動や成果を的確に把握できる「課業」と呼ばれるタスクベースの評価制度を導入するなど、テレワークにも対応できる枠組みを次々に導入していきました。コロナ禍が勃発した頃には体制が整っていたので、テレワークを主体とする働き方にスムーズにシフトすることができました。

佐賀:BCPとして導入する企業は多いと思いますが、やはり日頃から使って慣れておくことが大切ですよね。そして実際に使っていく中で、無駄な通勤時間がなくなったり、家庭との両立が図れたりという経験をしてほしい。私たちとしても、災害対策にとどまらず、生産性を上げ、豊かな生活を送るための働き方を取り入れていきましょうという提案をしています。

― 今回のコロナ禍では、どのような働き方を実践されているのでしょうか。

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佐賀:新型コロナウイルスが広まり始めたのが2020年2月くらいでしたが、そこから4カ月後には一部、備品の置き場だけ残してオフィスをクローズしました。以来2022年5月まで、100%リモートワークで業務を進めてきました。
 オフィスをクローズする前は従業員も35人程度で、基本的にリモートワークを行いやすいオフィスワーカーばかりでしたので、リモートワークに移行するにあたって特に問題はありませんでした。そこから現在までに100人以上が入社して、今は約150人にまで増えました。普段からZoom経由でコミュニケーションを取っていますが、まだ直接会えていないメンバーが50人くらいいます。
 ただ、コロナの状況も落ち着いてきたので、ここにきてアメリカではオフィスを再オープンし始めており、日本でも6月から新たに貸しオフィスと契約します。やはりリアルで顔を合わせるのは嬉しいもので、みんな楽しみにしています。
 今後はオフィスに出社する人と、家から働いている人とがハイブリッドで共存する形になります。それぞれの事情や好みに応じて、働き方を自分で選べるようにして、会社としても状況を見ながら柔軟にオフィスを拡大、縮小する形で運用していく予定です。

平野:アステリアでは、2020年1月31日に全社員にテレワークを推奨し、4月の緊急事態宣言下では、ほぼ100%のテレワーク実施率となりました。そこから現在まで、テレワーク実施率は約90%を継続しています。
 また、2020年7月にはオフィスを縮小することを決めました。来客スペースだけ残して、私を含めて社員の個人デスクも全廃。既成概念とは異なる「出社を前提としないオフィス」を作り上げることで、もう後戻りはしないということを社員に宣言したわけです。その状態に慣れてくると、お客様対応スペースもこれほどの広さは必要ない、もっと使い勝手を良くしたいという新たな提案や課題をもとに、オフィスの定義を「必要な時に必要な人が集う場所」と変え、新たな本社「センターオフィス」を2021年10月にオープンしました。

― 新しい働き方を推進する上で、どんな課題があるでしょうか。例えばコミュニケーションの難しさを指摘する企業は少なくありません。

平野:人間にとって一番の苦痛は孤独だといいますから、人とのつながりはとても大切です。テレワークの推進やオフィスのあり方を考える上で、コミュニケーションを活性化させる環境を創り出すことがポイントだと思いますね。

佐賀:私たち自身の今後のチャレンジとしては、オフィスの再オープンにあたって、出社する人と在宅の人との共存をどう図っていくかです。全員出社あるいは全員在宅なら、それほど難しくはありませんが、例えば会議室で向き合っている人たちと、オンラインでつながっている人たちがいた場合、リモートでは白熱した議論に口を挟むのがなかなか難しいものです。
 そこはテクノロジーの力を使って、モニター越しでも実際に会議室にいるかのように参加者の顔が見えたり、会議室のホワイトボードのように誰もが自由に書き込めるなど、違和感なくコミュニケーションを取れる環境を整備していきます。

平野:加えて、大切なのはマネージャーの意識ですよね。マネージャーが「テレワークはやりたくない」と一言言ってしまったら、それが壁になってしまいます。柔軟な働き方を進めていくことが生産性や創造性を高めていく鍵になる。そのチャンスを手放してしまうのはもったいないことです。実際、アステリアではテレワークを導入してから、業績は最高益を更新し続けています。

佐賀:リモートではマネジメントがやりにくいという声を聞きますが、実際にやってみるとそんなことはないと思います。ビデオ会議でどのようにリーダーシップを発揮しているか、チャット上でどれだけ積極的に発言しているかなど、全てがよく見えますから。

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平野:その通りですね。アステリアではSlack※2を活用していて、コロナ禍前より会社の中で何が起こっているかが見えます。相手を煩わせずにいつでも自由に見に行けるので、オンラインのほうがマネジメントもしやすいですね。
 逆に社員のほうからも、トップの考えがよく見えるようになったと言われます。緊急事態宣言が出て社員に直接会えなくなったので、毎朝Slack上にメッセージを出すようにしたら、社員から「以前よりも平野さんの考えていることがわかるようになりました」と言われました。
 テクノロジーを使うと、トップから全員に一斉にメッセージを送ることも可能です。階層別の伝言ゲームで情報が歪曲することもなく、コミュニケーションがフラットになりますよね。尖った意見も尖ったまま発信することができますし、新しいアイデアの創出にもつながっていると感じています。

佐賀:そうですね。銀行の役員の方とお話した時、優秀な人材を集めるために、以前は大手町にオフィスを構えることが必要だったけれども、今ではリモートワークの環境を整備できるかが重要なポイントになっているのだと明言されていました。今やどれだけ柔軟な働き方ができるかが、会社選びの動機のひとつになっているんですね。

平野:都会を抜け出して、地方で暮らしたいと考える人も増えています。地方で就職したいということではなく、今の仕事を続けながら生活の拠点を環境の良い地方に移したいというなら、柔軟な働き方ができる会社を選ぶでしょう。アステリアでも、熊本に新設した開発拠点で現在7人が働いていますが、そのうち4人が県外から移住してきた人たちです。

佐賀:私たちも同じですね。当初のメンバーは東京近郊が多かったのですが、コロナ禍でオフィスをクローズした以降に採用したメンバーは全国に散らばっています。中には頻繁にハワイで過ごしているという人もいます。
 Zoomはもともとベンチャーですから、企業風土も極めて自由で、その雰囲気に惹かれて集まってきた人たちが多いのです。日本でも人数が増えたといっても150人程度なので、厳格なルールが存在しているわけでもありません。それぞれが望む働き方をお互いに尊重し、許容していこうという空気がありますし、私からもそう発信しています。

平野:私自身も外資系ベンチャーを経験していますし、もともとエンジニアですので、今のニーズではなくて未来のニーズに応えていきたいという思いがありました。ですから自分で会社を興してからも、いかに新しいテクノロジーを取り入れて自分たちの力にしていくかを常に考えています。最新のテクノロジーを使って自分たちも幸せになり、より良いサービスを通じて世の中に貢献していければと思いますね。

― あるべき未来の働き方に向けて、展望をお聞かせください。

佐賀:私たちはZoomというビデオコミュニケーションプラットフォームを提供していますが、将来的にはZoomだと意識することなく、誰もが気軽に使えるようなテクノロジーにしていければと考えています。人口減少が進む中で日本の労働力不足は避けられません。海外から日本のお客様へ、逆に日本から海外のお客様へ向けたサービスを提供するなど、今後ますますボーダーレス化が進んでいくはずです。最近Zoomにも自動翻訳の機能を加えましたが、将来を見据えて壁を超えるようなサービスを提供していければと考えています。

平野:人を増やすことで問題を解決することはやめて、テクノロジーの活用を真剣に考えるべきだと思いますね。優秀な人をつなぎとめるためにも、働き方の多様化は必須です。我々はオフィスの定義を見直し、現在は新本社であるセンターオフィスのほか、リモートオフィスやバーチャルオフィス、全国300カ所に散らばるサテライトオフィス、いわゆるワーケーションにあたるリゾートオフィスと5つの選べるオフィスを用意しています。個人と会社との関係は、「雇用」から「個要」、個人個人が必要に応じてつながっていく形になると考えています。

佐賀:おっしゃる通りですね。私が今最も課題だと感じているのは、リモートワークがやりにくいと言われてきた現場に、いかにテクノロジーを持ち込めるかです。リモートワークを一部のオフィスワーカーだけのものにとどめておいてはいけないと思っています。例えば、ある引っ越し会社ではお客様の見積もり業務をリモート化する取り組みを始めました。それぞれの現場でビデオコミュニケーションを活用する余地はまだまだ大きいと思っています。

平野:幅広く現場に広げていくためには、私はモバイルが鍵になると考えています。パソコンは持っていなくても、みんなスマートフォンは持っていますし、どこにでも持ち運べて使えるメリットをもっと活かしてほしいですね。

佐賀:特別な知識やスキルがなくても、普通の人が気軽に使えるテクノロジーを提案していくのが私たちの役割だと思っています。Zoomを通じて国境を超えてさまざまな人とつながることで、実際の行き来も活発になって人と人とのコミュニケーションがさらに増えていく。そんな世界が実現することを望んでいます。

平野:まったく同感です。私たちも特別な「デジタル人材」がいなくても誰でも使えるサービスを提供していきますので、経営者の方々にはぜひ勇気を持って一歩踏み出してほしいですね。


※1 2022年4月7日発表の「4社合同調査レポート」に詳細が記載されています。
www.asteria.com/jp/news/press/2022/04/07_01.php
※2 アメリカのSlack Technology社が開発・運営しているビジネスチャットツール


    ZVC Japan 株式会社(Zoom)社長
    佐賀 文宣(さが ふみのり)


    1992年、北海道大学工学部修士課程修了。日本アイ・ビー・エム株式会社へ入社し、ThinkPadの開発、日本およびアジア太平洋地域担当プロダクトマーケティングやパートナーセールスに携わる。シスコシステムズ合同会社、ヴイエムウェア株式会社を経て、2019年2月、ZVC Japan へ入社。

    アステリア株式会社 代表取締役社長/CEO
    平野 洋一郎(ひらの よういちろう)


    熊本大学工学部を中退し、ソフトウェアエンジニアとして8ビット時代のベストセラーとなる日本語ワードプロセッサを開発。その後、ロータス株式会社(現:日本IBM)でマーケティングおよび戦略企画の要職を歴任。1998年、インフォテリア(現:アステリア)株式会社創業。2007年、東証マザーズ上場。2008年~2011年、本業の傍ら青山学院大学大学院にて客員教授として教壇に立つ。2018年、東証一部へ、2022年、東証プライムへ市場変更。

以上
日時:2022年06月26日 10:00

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