ブロックチェーン特集:インタビュー Vol.03『ブロックチェーン普及に向けた4つの課題』
【前編】ブロックチェーン普及にあたって抱える4つの課題~森・濱田松本法律事務所 増島 雅和 弁護士

ブロックチェーン特集:インタビューVol.03/ブロックチェーン普及に向けた4つの課題~森・濱田松本法律事務所 増島雅和弁護士に聞く(前編)~

フィンテック市場で大きな注目を集めているブロックチェーン。元々仮想通貨のビットコインを実装するためのテクノロジーとして生まれたものですが、現在ではそのメリットが評価され、フィンテック市場だけに留まらず、流通や製造、公共機関、医療など様々な分野での利用が検討され始めています。しかし一方で、ブロックチェーンが本格的に普及するためには、解決しなければならない数々の課題があることも浮き彫りになってきています。フィンテック特集第3回は金融庁監督局への出向経験を持ち、国際通貨基金 金融安定査定プログラムの外部顧問も務めた経験を持つ森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士にお話を伺い、前編・後編に分けてお送り致します。

普及に向けての「解決すべき課題が明らかになってきた」ブロックチェーン

Q: フィンテック市場の中でブロックチェーン技術に対する注目が大きく高まってきています。現在の状況をどのようにご覧になられていますか。

テクノロジーの成熟度と採用率の推移を示すメソドロジに、アメリカのITアドバイザリ企業、ガートナーが生み出したハイプ・サイクル(下図版参照)があります。縦軸に期待度、横軸に時間を取り、時間の経過と共にテクノロジーがどんな普及の仕方をするのかをグラフ化したもので、新たなテクノロジーは、登場直後の黎明期から期待度が一気に高まり、ピーク期を迎え、その後課題が明らかになると期待度はまた一気に下降して幻滅期に入ります。その課題が解決されると、以降は右肩上がりでいよいよ実用段階に入っていく、というものです。

現在、ブロックチェーン技術は「過度な期待」のピーク値を超えつつある。

ブロックチェーンという技術の変遷を見るとこのハイプ・サイクル上にきれいに乗っており、今はちょうど「期待のピーク」を超えた辺りにいると私は考えています。2016年に入り、解決すべき課題が次々と明らかになってきています。それは概念先行で理想論ばかりが取り上げられる段階から地に足が着いた現実を踏まえた段階への移行を示します。現在はその課題に対して解決方法を模索するフェーズに来ており、これまでのような過熱感は落ち着いていくものと予測しています。しかし、技術が世間に受け入れられていくためにはこの「プラトー」のフェーズを踏むことが必要であり、今見えてきている課題の解決とともに、ブロックチェーンは大きく普及していくことになるのではないでしょうか。

※上記図版出典元URL:ガードナー "リサーチ・メソドロジ – ハイプ・サイクル"
www.gartner.co.jp/research/methodologies/hype_cycle.php
(用語の解説も上記ページにてご覧頂くことができます。)

Q: ブロックチェーンは期待のピーク期を超えたということのようですが、そもそもブロックチェーンは、どのようなメリットが評価されたのでしょうか。

ブロックチェーンの特徴は、大きく3つ挙げられます。一度記録されたデータの改ざんができないこと、次にそのデータを消すこともできないこと、そしてシステムのダウンタイムがゼロであることです。特に3つめの特徴について、ブロックチェーンでは複数のコンピュータで処理を分散するので、仮に1台のマシンが障害に見舞われても他のマシンが処理を引き継ぐことで、システムダウンを発生させません。これは従来のシステムのように、本番サイト以外にバックアップ用サイトを用意するというような、システムの堅牢化、二重化のコストが不要になるということです。

改ざんできない/消せない/ダウンタイムゼロという3つ特徴は、いずれも取引の信用を担保したい金融機関にとっては必要不可欠で魅力的です。さらにブロックチェーンは、システムコストの大幅低減というプラスアルファのメリットまでを提供してくれる。それが今、フィンテック市場でブロックチェーンが大きな注目を集めている理由です。

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ブロックチェーン普及のためにクリアしなければならない“4つの課題”

Q: 一方ブロックチェーンの普及を考えた時に解決すべき課題とは、どのようなものでしょうか。

増島雅和弁護士写真

まず課題のひとつ目として挙げられるのが「プライバシー、セキュリティの問題」です。
ブロックチェーンは、単一企業が管理者となるプライベート型と、複数企業が管理者となるコンソーシアム型、そして管理者がいないパブリック型に分類できますが、ここでまず問題となるのは、「誰が、取引のトランザクションを記録した元帳を持っていていいのか」という点です。プライベート型なら管理主体は単一企業なので分かりやすいですが、コンソーシアム型やパブリック型では、複数のノードが存在することになる。この時に誰が情報を所有していいのかを考えた時にセキュリティの問題、プライバシーの問題が生じます。しかし、法制度もまだ未整備の状態というのが現状です。

ふたつ目は「国内外を含む法制度と運用ルールの整備」です。ブロックチェーンの特徴のひとつ、取引内容を認証するプロセスを取引当事者以外の第三者に委ねるテクノロジーであることに起因する課題です。認証作業を外出しするためには、必然的に複数のノードが必要です。そうするとコンソーシアム型もしくはパブリック型という形で、ブロックチェーンをどう使っていくかという議論になっていく。しかし現状の法制度の中では、例えばある消費者が特定銀行に提供する取引情報などは、勝手に元帳に記録して他の人と共有することはできません。どうしてもこれを行いたい場合には、個人情報保護法上の一定の共同利用という別の枠組みを使わなければならない。さらに個人情報保護法は国によって全く異なるので、国をまたいだ運用ルールの制定が必要です。すなわち、ブロックチェーンの普及においては、国内における法制度の整備だけすればよいわけではなく、諸外国の状況も踏まえて各国との調整も必要になります。これは普及における大きな問題のひとつと言えるでしょう。

そして意外と見落としがちなのが、「認証作業ヘのインセンティブをどうするか」という点です。ブロックチェーンを使うことで、従来のようなシステムの二重化をする必要がなくなり、大幅なシステムコストの削減が実現できると言われていますが、認証の作業者たちが求めるインセンティブまでを勘案した時、トータルでそれほど大きな削減効果が期待できない可能性もありえます。認証作業をどんなインセンティブ体系で回していくか、という点は明確にしておかなければならない課題となります。

最後の課題としてネットワーク環境の問題を忘れてはなりません。コンソーシアム型やパブリック型で、地理的にも離れたノードで処理を分散させるということになれば、専用線ではなくインターネットの利用が前提となります。その際には決済速度など、処理スピードの遅延といった問題が出てくる恐れがあります。これはブロックチェーン自体の課題というよりも、その先にある外的環境が普及時のボトルネックになる可能性があるということです。この点をどう解決していくかも、考えておかなければならないポイントです。

まとめ

増島雅和弁護士へのブロックチェーンの今後の普及に関してのお話、いかがだったでしょうか。ハイプ・サイクルを用いた現状の説明はブロックチェーンが過剰な期待というステージから本格的な普及への準備段階に入ってきていることを予感させてくれました。また、現状の課題として4つのポイント、「プライバシー保護」、「国内外を含む法制度と運用ルールの整備」、「認証作業ヘのインセンティブ」、「ネットワーク環境の整備」を挙げ、これらをひとつひとつ解決していくことがブロックチェーンの普及に弾みをつけていくことでしょう。次回、後編は引き続き増島雅和弁護士に、金融及びそれ以外のところにおけるブロックチェーン普及における課題及び解決の糸口などについて話を伺います。どうぞご期待ください。



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