2017年8月10日

セカンドライフ研究の第一人者、三淵先生に聞いてみた!仮想空間と現実世界の境目をなくすために必要なこと【対談】

今から約10年前、話題になっていた「セカンドライフ」をご存知でしょうか。このセカンドライフ、
実は現在のVRブームにとても関係があるそう。VRは仮想空間ではなく五感?VRは未来のコミュニケーションツール?
最近、話題になっているVRの未来について、セカンドライフ研究の第一人者である三淵先生にお伺いしました!


「in.LIVE」でも度々テーマとして取り上げている「VR(仮想現実)」。以前ご紹介した「VR SPACE」や「HoloDive」のように、都内でもVRを体験できる施設が増えはじめ、少しずつ身近になっているのを感じます。

しかし、今から約十年前の2006年。仮想空間を舞台にした「SecondLife(セカンドライフ)」というオンラインゲームが、業界で話題になっていたのをご存知でしょうか?

現在のVRブームとも密接な関わりを持つセカンドライフ。
今回は、当時「セカンドライフ研究室」の室長として数々の書籍を出版し、仮想空間に大きな可能性を見出した第一人者とも言われている、デジタルハリウッド大学大学院教授の三淵先生と、インフォテリア株式会社にてIoTプラットフォーム「Platio(プラティオ)」の事業部長を務める松村氏との対談をおこない、VRの発展がもたらす未来についてお伺いしました。

三淵啓自(みつぶち・けいじ)さん
デジタルハリウッド大学大学院 専任教授

スタンフォード大学コンピューター数学科修士卒業後、米国 サンタクララ研究所にて人工頭能や画像認識の研究に携わる。退社後、米国でベンチャー 企業を設立。その後日本で、日本Webコンセプツ、米国で3U.COM Inc.社を設立。 昨年、株式会社バーチャルIPプロダクションを設立、代表取締役に就任ユビキタス情報処理や画像認識システムなど、最先端のWebシステムの開発仮想現実のコンテンツ研究、開発、ビジネス展開を行っている。

メディアサイエンス研究所・NCG研究室長、経産省 次世代高精細CG合成の研究開発 主任研究員、総務省 サイバー特区における著作権UGCの管理 主任研究員、メタバース協会 理事 社団法人BCI戦略研究所 理事、先端IT活用推進コンソーシアム 顧問

松村宗和(まつむら・むねかず)さん
インフォテリア株式会社  Platio事業部 部長

東京大学を中退し20代をフリーランスのウェブ開発者やウェブマーケターとして過ごす。2009年に金融情報サービスのスタートアップに参画して取締役COOに就任し、翌年のGMOクリック証券による同社の子会社化に際して代表取締役CEOに就任。2012年、インフォテリアに入社しモバイルクラウド製品のマーケティングと海外展開に携わり、2017年4月より現職。

VRは「五感」と同じ?人間が感覚を共有する時代に

本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、三淵先生がVRの領域に興味を持たれたきっかけって何だったんでしょうか?
私はもともとプログラミングをやっていたんですが、昔からコンピューターって非常に使いにくいなと思っていたんです。ファイル名やフォルダ名ごとに整理しても、どこになにがあるかわからなくなってしまうので、結局いつも紙のメモを使っていたり…。パソコンだとパッと知りたい情報がどこにあるかわからなかったのですが、メモだと空間的に欲しかった情報に辿りつけるんですよ。

それに気がついたのは、2006年のセカンドライフ(3Dアバターたちの住む仮想世界)が流行した頃でした。これまでのゲームとは違って、仮想空間の中でモノが作れたり、その空間に様々なモノや情報をレイアウトできるんです。「三次元空間の方が人々は情報に辿りつきやすい」ということに気付いたきっかけでもあります。広い空間に自分の作ったものを並べると、不思議と、感覚的・空間的にどこになにがあるかを覚えていられますから。
それは興味深いですね。ちなみに、三淵先生は「VR(拡張現実)」をどんなものだと定義していますか?

私が考える「VR」は、人間がやっていることをシミュレーション空間で全部できるようにする技術のひとつで、五感(センス)と同じものだと思っています。人間が五感で感じられるものを再現できたり、その感覚を共有できる技術なんです。
VRで感覚を共有ですか。それは視覚的なものにとどまらないということなんでしょうか?
そういうことです。例えば、人間が感じている感覚を全部センサーで認知し、そのデータを送れば同じような体感ができるはずですよね。最近は「近い将来、AI(人口知能)が人間を支配するのでは?」とも言われていますが、VRにしてもAIにしても、「なぜ人間がこのように考え、感じるのか?」という理由を解明して、人間を理解しようとしているものなんです。
”人間を理解しようとしている”というのは面白いですね。そもそも人間って「知覚」と「知能」の二つで成り立っていると思うのですが、VRが知覚で、AIが知能の範囲ということなんでしょうか?
そうですね。人間が五感で感じた情報を脳で知覚して、それを意識したうえで身体を使って反射しているのがこの世界だと思うのですが、そうしたことをあらゆる角度から実験できたのが、仮想空間を舞台にしたオンラインゲーム「セカンドライフ」だったんです。

ゲームを通じて全く違う世界をつくることで、実験ができると。具体的にはどういった可能性があるのでしょうか?
例えばセカンドライフ上で、仕事で男性と同等に扱ってもらえず苦しんでいた女性が、いかにも仕事のできそうなマッチョな男性アバターに扮して遊んでいたんですね。ところが、なぜか皆がよそよそしかったので、女性のアバターにしてみたところ、周りの人がどんどん声をかけてくれた。そこで改めて「やっぱり女性でよかった!」と気がついたという事例があるんですよ。

つまり、どちらが良いか?ではなく、それぞれの立場を実際にシミュレーションできることで、相互理解が深まる可能性があると思うんです。人って、自分じゃないものに憧れるじゃないですか。それを実際に体験できるのがVRなんです。こうした様々なシミュレーションができれば、”自分にとって本当にこれが幸せなのか?”と自問することができますよね。これって、単純に見えて、実は社会的にもかなり意義があることではないかと思っています。

VRで「もし〇〇だったら」をシミュレーションできる?

VRという技術を通して、現実の自分とは違う立場をシミュレーションするというのは面白いですね!ある意味、IoTの分野でもすごく通じるものがあると感じました。IoTってエンジンのレプリカを作って、全部をシミュレーションして動かしますから。
たしかに、概念としては近いかもしれませんね。

そう考えると、今、インダストリアルIoT(産業向けIoT)がやろうとしていることを、VRは世界の人類に対してやっている感じでしょうか。ビジネスで言えば、最高のパフォーマンスや生産性を測るところを、VRでは「幸せかどうか?」という観点でシミュレーションできるということですね。
そう言えるかもしれませんね。
例えば、世界の山に登頂することに憧れている人が、VR上で登山家のリアルな体験をシミュレーションできたら、あ~しなくてよかった!って思うかもしれないじゃないですか(笑)。こういう体験って、非常に価値があることだと思うんです。今までは、もし〇〇だったら、みたいな実証ができなかったんですが、今はこうした技術を使って、様々なシチュエーションを体感できる時代になってきました。

いろんな体験が共有できることによって、じゃあ本当に自分にとって何が必要なのか?と、自分だけのユニーク性に気付くこともできると思うんです。

「感覚」で伝える、コミュニケーションツールとしての可能性

一方で、先生の考える未来だと、誰かの人生を違う人の人生にすり替えてしまうこともできるんでしょうか。誰かの知覚(五感)をコピーすることはできると思うんですが、知能はどうなんでしょう?
すり替えられるようになると思いますね!
ただ、知能が完璧にコピーできちゃうと、自分ではない全く別の人になってしまいますよね。本来、多様性があるはずの自我を否定することになってしまうんです。
そうではなく、同じシチュエーションでも自分だったらこうするけど、あの人はこうする、みたいな違いがシミュレーションできることが重要かなと思います。

そうすることで、言語よりももっと深いところでの理解ができるようになる。実はそういう「理解の積み重ね」が、いずれは戦争もなくせると思うんです。だって戦争中に戦車に轢かれる人の思いを体験したら、絶対にしないでしょう?今は他人事に思えてしまうことも、それが他人事じゃなくなるんですよ。

私自身、インドの山奥を2ヶ月くらい放浪したことがあるんですけど、価値観や世界の違いに衝撃の連続でしたよ。でもこれからの時代、VRがあればわざわざ飛行機に乗らなくても「新人研修で2ヶ月インドに行ってこい!」なんて体験ができ、匂いも空気も食べ物も全部そこで体験することもできますよね。
今まで言葉でしか伝わらなかったことが「感覚」的なことで伝えられるようになると考えると、VRが新しいコミュニケーションツールともなりますね。
そうなんです!あとは、自分の子に自身と同じ経験を再現させたものを体験させたり、交通ルールを教えるために、交通事故ってこんなに怖いんだよと事故を体験させてみたり。賛否両論はあるかもしれませんが、想像ではない「再現」を通じて、次の世代に伝えられる時代がくるのではないでしょうか。

VRと現実の境目がなくなる未来、重要なのは「コミュニティ」

そう聞くと、三淵先生が「VRは仮想現実ではない」とおっしゃるのがよく分かります。
まさに今説明したとおり、VRは「仮想現実」というよりも、「現実と全く同じものを再現する技術」なんです。最終的には、人間がリアルと同じように五感で感じられるようになるのが目標ですが、リーズナブルに一般の方に届けられるレベルだとまだそこまで到達していません。でも、いずれ両方の境目はなくなると思いますよ。

ちなみに、どれくらいで来ると思われていますか?どの程度、現実的なお話なのでしょうか?
10年くらいはかかると思いますが、進化のスピード自体は今加速していますね。

ただ、技術の進歩と同じく重要なのが「コミュニティ」です。
以前「なぜ人がゲームの中でアイテムを買うのか?」ということを議論していた人がいました。ゲームのアイテムって現実世界では全く価値はないのに…と。これ、実はそのアイテムをゲットするために難しいことをクリアして、それを他の人から評価されるということが重要なんです。これが仮に、誰も知らないゲームを一人でやっていたらそんな評価は生まれないですね。

コミュニティができて、周りの人とコミュニケーションを取るようになると、人は表現をはじめるんですよ。アバターに色をつけたり、羽をつけたりするようになるのですが、もうこの時点でゲームのキャラクターが自分じゃないパペット(=アバター)に変化していますよね。セカンドライフで起きていたことはまさにこういうことです。

今はまだ一部の人しかこの感覚はないかと思うのですが、いずれVR・MRと、現実・仮想が重なってくれば、アバターと自分自身の境もなくなるわけで、そうなるとそれは自分の一部になると思うんです。これって、自己表現の究極ですよね。今はまだ限られた空間での話ですが、これからきっと世界的な大きな空間になって、価値も変化していくと思います。

VR上でものづくりからビジネスまで

こうした動きは、最終的にはビジネスにも繋がるんでしょうか?そういうツールができることも考えられますか?
ビジネスという点で言うと、実はセカンドライフの中で「ものづくり」ができるんですよ。

昔、セカンドライフ上で音楽のライブをやりたい!という人がいたんですが、ギターがないということに気がついて、職人さんがギターを作ってくれたんです。10年前にはすでにこういったことが起きていたんですね。
それって、今の時代であれば、3Dプリンターでフィジカルスペース(物理的な空間)に生み出すこともできるのではないでしょうか?
もちろんできますね!当時のセカンドライフ上では、セカンドライフの世界の中でものづくりをしている人も多くいたんです。利用者自体が少なかったので、あまり売れなかったんですけどね。

ということは例えば、車のデザイナーさんが、仮想空間で車をデザインして、実際にVRのバーチャルな世界で車を動かしてみて、リアルな現場でそれを作ることができるわけですよね。
そうですね。3次元の空間でアバターを使って消費するということの敷居はこれからもっと下がってくると思いますよ。

実は2006年にドイツに住んでいる方がセカンドライフ上で年間1000万稼いだことがニュースになり、それに憧れてセカンドライフを始める人も多かったので、「儲かる」ということもブームを作り出すひとつの要因なんです(笑)。
それってなんだか、今のYouTuberのような感じですね!
ただ、消費者はいつ頃からVRのデバイスを持つのか?というところも問題ですね…。

そうですね。私は、かつての東京オリンピックのときにカラーテレビが売れたのと同じで、2020年の東京オリンピックに向けて、2019年頃には安価でハイクオリティのVRデバイスが大量に出て普及するのではないかと思っています。一つのきっかけではありますが、オリンピック会場にいるのと同じ体験ができたら、つい買いたくなりますよね!

デバイスが普及すれば、デバイス上のコンテンツが増えて、応用できるシーンも増える。今まで興味のなかった人たちも、VR上で友達や家族に会えることがわかったら、敷居も低くなるのではないでしょうか。
そうなると、デバイスとしての幅も広がりそうですね。
ひょっとしたら、近い未来にVR専用(対応)の家もできるかもしれないですし、VR空間の中で生活できるようになることも十分に考えられます。これからますます、VRが持つ本来の価値観が広まり、次世代のコミュニケーションツールとして、欠かせないものになりますよ。

セカンドライフ研究の第一人者、三淵先生に聞いてみた!まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は早い時期から「セカンドライフ」に注目し、仮想空間での可能性を見出した第一人者でもあるデジタルハリウッド大学大学院教授の三淵先生にVRの未来についてお伺いしました。

いずれVRはコミュニケーションツールとなり、わたしたちがより”幸せ”を感じ、自分らしく生きられるひとつのきっかけになるのかもしれません。「VR=仮想ではない」という考えは、三淵先生をはじめ、多くの有識者の方が強調しているポイントでもあるようです。

想像していたよりも早く、仮想空間が身近になる世界がやってくるのでは?と思うと、遠い存在だったVRが以前より身近な存在に感じることができました。

これからますます進化のスピードを上げそうなVRの今後に、ぜひ注目してみてください!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人
石川妙子
石川妙子 インフォテリア株式会社 広報・IR室。in.Live編集部。 大学卒業後、大手銀行にて勤務。その後、自由大学の運営を経て、2015年より世界一周の新婚旅行へ。500日43カ国を旅し、現在インバウンドメディアの編集部にも在籍中。