2018年7月31日

キーワードは「エシカル消費」、宮崎県綾町で行われた野菜のトレーサビリティ実証実験に密着

ブロックチェーンの新たな活用事例として注目が集まる「トレーサビリティ」。今回は、宮崎県綾町にて行われた野菜のトレーサビリティの実証実験の様子と、その裏にある新しい消費のあり方を取材しました。


こんにちは、in.LIVE編集部の長沼です。
皆さんは日々の食卓に並ぶ食材が、どこで生産され、どういった流通経路で、自分の口まで運ばれているのか考えてみたことはありませんか?

生産者、流通業者、販売業者、食材を料理する人… と様々な人の手を介して、私たちのからだへやってくる食べ物。いまこの食材が “辿ってきた道” をブロックチェーンの技術を使って証明する「トレーサビリティ」が話題になっています。

実際にこの技術を検証する実証実験の現場に同席してきたので、その様子をレポート形式でお伝えします。

地域ぐるみで有機野菜を育ててきた、宮崎県綾町での実証実験

今回の実証実験が行われたのは、宮崎県・綾町(あやちょう)。
豊かな自然に恵まれた地域で、美味しい野菜が育つ地域として注目を集めています。いわゆるブランド野菜として高級スーパーで扱われることも多い綾町のレタスを使って、「この野菜は宮崎県綾町で生産されたものである」ということの証明を、ブロックチェーンを通じて行っています。

そもそも綾町は、1988年に化学肥料や農薬を使わない生態系に配慮した有機農法を推進する条例を全国で初めて制定し、有機農業に地域ぐるみで取り組んできた町として知られています。その取組みは世界からも高く評価されており、2012年には”ユネスコエコパーク”にも登録されたのだそう。野菜を育てる土の栄養分などを長年データで管理していて、今回の実証実験にはそうしたデータも活用されていました。

△綾町有機農業開発センターの様子。土壌に含まれた成分の分析などを行っています

産地の偽装や消費期限の偽装、品種の偽装というのは、これまで食品メーカーやレストランなどで頻繁に発生し、その度に日本のニュースを騒がせてきた問題。

”改ざん”が事実上不可能であるブロックチェーンに、正しい生産履歴や流通の記録を書き込むことで、その食材が間違いなくその産地でつくられたものであるという安心・安全を証明する今回の実験は、様々なメディアからも注目されていました。

実証実験で行われていたのは、以下のようなフロー。

①収穫したレタスをダンボールへ詰める
②梱包の際に、LTEでインターネットに接続された「IoTセンサー」をダンボールに同封
③箱に伝わる振動や温度、照度などのデータをセンサーに蓄積し、ブロックチェーンの台帳に記録
④さらにダンボールに各生産物の情報がアップロードされたNFCタグ(※)を取り付ける

(※)消費者はこのNFCタグからQRコードを読み取れるようになっており、読み取ることで書き込まれた一連の情報を確認できるようになっている

こうして出荷された生産物は、食卓に並ぶまでの流通経路など随所随所でデータが書き込まれていきます。

IoTセンサーには照度を計測する機能もあるため、例えば、購入した店舗などまでの経路で箱が開けられたり、直射日光にさらされていたり、別のものと入れ替えられたりしていなかったか?といったことも分かるのだそう。また、ブロックチェーンには、IoTセンサーから入手する情報以外にも、野菜が生育した土壌や地域に関する情報、出荷時の荷姿なども記録され、まさに「野菜の一生」が記録されることになります。

△野菜の入ったダンボールに同封される「IoTセンサー」

こうしてトレーサビリティが完了した野菜自体のお値段は、通常の価格よりもやや割高ではありますが、値段よりも有機野菜の美味しさや生産者が分かる安心などを重視する人からすれば、データによる客観的なエビデンスがあることは非常に価値があるのではないでしょうか。

ブロックチェーンで記録された野菜が食卓へ!

そうして生産者さんの手から、ブロックチェーンという最新技術をたどりながら、宮崎県綾町からやってきた様々な野菜は都内のイタリアンレストラン「REALTA」へ。

お店のシェフがダンボールを開封すると、そこには綾町で生産された野菜と、IoTセンサーが。実際に届いた野菜を”検品”するように、NFCタグを通じて情報を確認します。

一方、今回の実証実験のために集められたお客さんは、何やら手元でスマホをごそごそ…

店舗に設置されているアダプター(ドングル)をスマホに装着すると、その場で提供される野菜の流通の情報や生産地の映像などが確認でき、さらにそのタイミングで、”その消費者が情報を見た” という記録までもがブロックチェーンに記録されていきます

そして実際に綾町で採れた野菜を使ったコースを注文すると、さらに別のドングルを渡され、注文したお客さんに対しては「エシカルトークン」なるものを発行。このトークンもブロックチェーンを通じて発行されており、いわば、地球にやさしい「エシカルな消費者」としての称号が与えられるようなイメージです。

生産から流通の状態、そしてさらにはそれが消費されるところまで…。
野菜が生まれ、そして私たちの口に運ばれるまで、一連でつながる連鎖を、ブロックチェーンという最新技術を通じて見える化しているなんて、当たり前だけどなんだか不思議ですよね。

もちろん消費者からしてみれば、こうして「信頼性」が担保されている農作物を食べられることは安心でもあり、ITの技術がダイレクトに私たちの「食」に関わっていることを感じられました。

キーワードは”エシカル消費”、地球にやさしい消費とは?

こうしたトレーサビリティを通じて、消費者にとって「安全性の高い食材が食べられる」というメリットがあるのはもちろんのこと、「エシカルトークン」がポイントのように発行されることで、貯まったトークンの数に応じて、同じエシカルな食材を扱う別のレストランなどで、割引サービスが受けられるといったことを目指しているのだとか。

△今回の試食会で提供された綾町の野菜を使ったお料理

”エシカル消費” というのはまだまだ聞き慣れない単語ですが、そもそもエシカル(Ethical)というのは「倫理」という意味。ただ単純に、安いから買う/手軽だから食べる/便利だから選ぶ、というのではなく、日常における様々な選択のなかに、地球にやさしい生産・製造をしているか?など、その背景にある倫理的な意味を重視する消費スタイルを指します。

どうせ食事をするなら、環境保護に力を入れていないレストランよりも、そういったことに関心が高いお店で食べたい。多少値段は高くても、地球にやさしい生産方法でつくられた食材を購入したい。

△今回の試食会で配布されたメニュー。通常メニューとエシカルメニューで選べるようになっている

現在フランスでは、こうした持続可能な世界を意識した消費行動をする人のことを BOBO( bourgeois bohemian(ブルジョワーズ・ボヘミアン)の略)と総称したり、一種のトレンドのようなものになっています。

今回の実証実験も、単純なトレーサビリティとしての役割にとどまらず、地球にとって良い行動を改ざんできないデータで記録することで、ゆくゆくは”エシカル・コミュニティ”の証のような存在になっていくのではと感じさせられました。

トレーサビリティが、一次産業に携わる人たちの自信に

今回実際にその現場を見て感じたのは、このブロックチェーンを通じたフローは、これまで一次産業に携わってきた生産者の方たちの気持ちが伝わる仕組みでもあったということ。誰も格付けできないようなブランド野菜や、そんな野菜をつくってきた生産者の方々の素晴らしい仕事や日々の努力を、ブロックチェーンを通じて客観的に証明することは、一次産業に携わる人の仕事への誇りをも支えることになるのではないでしょうか。

△とても多くのメディアが注目していた、宮崎県綾町での野菜のトレーサビリティ実証実験の様子

トレーサビリティを行うということは、野菜の生産過程はもちろん、その野菜が育つ土の含有物などのデータも含めてオープンにするということでもあります。もちろんそれは、これまで宮崎県綾町が地域ぐるみで培ってきた生産環境に心から自信を持っているからこそできるもの。

IT技術を通じて確立されたブロックチェーンによるトレーサビリティは、”産地偽装を防ぐ” ためのものではなく、生産者の方の「こだわり」や「自信」を見える化するためのものなのではと感じさせられました。

今後のブロックチェーンの活用案の一つとしても目が離せません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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この記事を書いた人
長沼 史宏
長沼 史宏 インフォテリア株式会社、広報・IR室長。一般社団法人ブロックチェーン推進協会、広報部会長 兼 事務局長も務める。日本電産サンキョー、YKKなどの大手製造メーカーで10年以上の広報・IR担当としてのキャリアを積み、その後インフォテリアの広報・IR室長に就任。2016年4月に発足した(一社)ブロックチェーン推進協会では事務局長と広報部会長を務め、広報担当としてブロックチェーン技術の普及推進、スタートアップPR支援などの活動に従事。他社主催勉強会、地方自治体での講演、大学での講師なども精力的にこなしている。