2018年6月26日

宅配ボックスが防犯対策に!?次世代のオープン型宅配ボックス 「ERYBOX」で変わる人と街の未来

オンラインでの購買体験が日常となった今、私たちの生活において欠かせない宅配ボックス。いま複数の物流事業者が企業間の枠組みを超えて利用できる “オープン型宅配ボックス” の展開が始まりつつあるのをご存知でしょうか?製品を開発・展開している、ERY JAPAN の堀井社長にお話を伺いました。


こんにちは!編集長の田中です。
皆さんは月に何回ぐらいオンラインでお買い物をしていますか?私は食料品から服、電化製品、家具にインテリアまで。ほぼ毎週のペースでECを利用して商品を買ったり、フリマアプリなどを活用して不用品を販売したり。自宅マンションの宅配ボックスをフル活用して生活しています。

2017年のBtoCにおける日本国内のEC市場規模は16.5兆円を超え(※)、全産業において伸び率は加速。その一方で、度々メディアなどで話題になっているのが、物流業者の「再配達」問題や人材不足に関わる問題です。

※ 経済産業省調べ(http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180425001/20180425001.html

環境省・国土交通省の発表したデータによると、宅配便が再配達されている割合は全体のおよそ2割。再配達により消費されている労働力は 1.8億時間(!)で、これは例えるなら、ドライバー10人のうち1人は、一日中再配達を担当している計算(年間7兆円の経済損失)につながっているのだとか‥!

そんな物流にまつわる課題を ”オープン型宅配ボックス” を通じて一挙解決しようとしているのが、日本とエストニアに法人を構える「ERYBOX」。社長の堀井さんに、オープン型宅配ボックスでできることや普及によって変わる未来の生活についてお話を伺ってきました!

堀井 翠(ほりい・みどり)さん
日本法人 ERY JAPAN LLC. 社長兼COO

2012年、当時勤務していたソーシャルゲーム開発会社がサイブリッジグループに買収され、アルバイトとして入社。その後社員となりWebディレクターに従事。受託開発の大規模な案件を経験した後、2017年にサイブリッジグループ会長室にて新規事業に携わる。 2018年、新規事業のひとつであった「ERY」の日本法人「ERY JAPAN LLC.」の社長に就任。

誰でも受け取ることができる「オープン型宅配ボックス」とは?

今日はよろしくお願いします!そもそも宅配ボックスって、マンションなどに備え付けであるものというイメージですが、それも変わりつつあるんですね。
駅やお店の前などに設置されていて ”誰でも受け取ることができる” というのがオープン型の宅配ボックス(ロッカー)と言われるものです。
誰もが自由に利用できる宅配ボックスといえば、駅やスーパーでそれらしきものを見たことがあるような…?
そうそう、実は最近、配送会社が運営する宅配ボックスが町中に登場しているんですよ。荷物を自宅宛に送らず、特定の場所に設置された宅配ロッカー宛に送ってもらって、そこで自分の荷物を受取ることができるというものです。

ただ現時点では特定の配送会社とECサイトの組み合わせに限られているサービスなので、Amazonのように配送会社が選べないサービスだと毎回使えるわけではなかったり。かつ配送会社のメンバー限定のサービスになっていたりするので、まだまだ利用のハードルは高そうですよね。

単純に ”自社の再配達率を下げる” という目的は達成されているんですが、まだまだ利用者視点では「いつでも誰でも使えるサービス」とは言い切れません。
なるほど〜。
ERYBOXの場合は、そうした制約をなくしてオープンに、「いつでも誰でも使えるサービス」を目指して展開されているんですね。すべての物流事業者に対応しているのは、ありそうで、意外とないかも?

各家庭に配達するのではなく、その宅配ボックスがある場所に配達してくれるというのも新鮮な感じ。
私たちは配送会社でもEC事業者でもなく、あくまで中立的な立場で展開しています。こうした企業がもっとたくさん出てきて競争になっていけばと思っていますが、やはり利益ポイントがなかなか少ないので、現時点で国内で展開しているのはまだ私たちだけですね。

最近では配送会社の人材不足もあり、コストの値上げに関するニュースを耳にすることも多くなりました。こうした「オープン型の宅配ボックス」を誰でも利用できるようになれば、そうした課題が一気に解決されるのですね!

実際に体験してみた!「ERYBOX」での荷物受け取り

というわけで、早速この「ERYBOX」を使った荷物の受け取りを試させてもらいました。

こちらが実際に設置される予定の「ERYBOX」。
色々なサイズの荷物が入れられるロッカーのようになっていて、サイネージでは広告動画も流れていたりとなかなかハイテクな外観です。

まずは実際に荷物を届けに来た配送業者の方が、どのようにして荷物をボックスに入れるのかを体験してみます。

△ 画面の案内に従って、荷物を預けるボックスの大きさを選ぶ

タッチパネルの案内に従って、送り状の伝票番号やバーコードをスキャンするとボックスが開き、荷物を入れるだけ。

△荷物のモデル(!?)となっているのは、サイブリッジグループのオリジナルキャラクター「シカータくん」

ばっちり収まったら、扉を閉めて、作業完了!

続いて、利用者側のフローも確認してみます。
事前にメールで受信した指定のQRコードを使って、荷物を受け取ります。

ぴぴっとスマホをかざすと、パカッとボックスが開いた!
預けられた荷物をここで受け取ります。通常の宅配ボックスとさほど変わりありません。

受取サインが必要な場合は、タッチパネルでサインを記入。これで受け取り完了です!

案内に従って操作するだけなので、至って簡単。今後はSuicaなどの電子マネーやクレジットカード決済で「着払い」や「代金引換」などの対応もできることを目指しているそう。

中国のようにIT化が進まない理由は「認証システム」にあり?

実際にやってみましたが、かなり簡単!
なんで日本で普及していないんだろう?なんて思っちゃいました。
そうですよね。もともとこの「オープン型の宅配ボックス」って、中国では一般的に運用されていて。それを日本でも展開しようと考えたのが私たちの会社のスタートでした。

宅配ボックスを開発していた中国の会社から筐体・ソースコードを買収して、基本のシステムや実機など、現地で作られたものを日本向けにカスタマイズしています。この夏には、都内10拠点で試験的に設置する予定なんです
もともと中国で普及していたものなんですね。
ということは開発コストなども最低限で済んでいるんでしょうか。言語の対応などは必要ですが、比較的早いタイミングで流通するのでは…?
それがですね、実は大きな課題があって。それは配達員さんが届けるときに「このボックスをどうやって開けるか?」ということなんです。

中国ってあらゆるIT化が進んでいるので、個人の認証も身分証の番号を入れるだけでスムーズに運用できるんですよね。独自のログイン作業なども必要ないですし。そういった点が日本はまだ進んでいないので大きな課題にはなります。

個人の認証がネックになるのか… それは考えてもみなかったです!
”その人が間違いなく配達員である” と認証するのも、今ある日本のシステムからカスタマイズしていく必要があります。荷物を入れたり受け取ったり、そうした基本的なフローを作るのは難しくはないですが、そもそもサービスを利用する「入り口」「出口」のところが一番開発で苦労している点ですね。
中国でのIT化が進んでいるという話はよく聞きますが、その理由がそんなところにあるとは。あとは元々の宅配サービスが日本ほど充実していないという背景もありそう…。
それはそうですね。中国に限らず、世界のどの国にも類を見ないほど!日本の配送業者のサービスが充実しすぎてるんですよ。

日にちや時間指定、再配達も何度も無料でしてくれるなんて外国の方からしたらびっくりですよ!日本の宅配業者さんがどうやって儲けているのか逆に聞かれるぐらいです(笑)。
えー!そうなんですか。でも確かに、そもそもそうしたサービスが無いとなれば、宅配ボックスが流通してくれないと困りますね。
なので日本では「宅配ボックスそのものの価値提案を変える」必要性も感じています。

例えば日本ではフリマアプリでの発送も増えていますが、未だにSNSなどを通じてものの売り買いをしたり、住所を伝えて発送してもらったりというやり取りが多いんです。聞いたこともない配送会社の配達員さんが、女性の一人暮らし家庭に直接訪れるというシチュエーションも多かったり… そうした際の安心安全を考えて、利用者が自分の「私書箱」のような感覚でオープン型宅配ボックスを使えるのは理想ですね。

あとは「旅先で受け取りたい!」とか「学校の近くで受け取りたい!とか… 荷物を受取る場所も自由に指定できるので、ちょっとしたライフスタイルの変化も出てくると思います。

自分の私書箱としての宅配ボックスか…!
そう言われてみると、いま住んでいるマンションにすでに宅配ボックスがあったとしても、あえてオープン型の宅配ボックスを使いたいシチュエーションもありそうですね。

宅配ボックスの設置が「街の防犯対策」の一環に!?

あとはボックスの機能自体もそうですが、利用者にとって重要なのは設置される場所ですよね。ERYBOXは今後どういった場所に設置されるのでしょうか?
現在は大型商業施設のほか、住宅エリアの月極駐車場、コインパーキングやまだ宅配ボックスが設置されていない集合住宅などを設置場所として検討しています。

実証実験の段階では「ERYBOX」は、ご要望いただいたエリアに無料で設置させていただいています。電気代もこちらで負担しています。
無償で!?凄い!
最近は物件を選ぶときにも「宅配ボックスの有無」というのが重要だったりしますし、これはかなりありがたいですよね。
そうですね。中小規模のアパートなどでオーナーの方が自腹で高額の宅配ボックスを導入するというのはなかなか難しいですし、物件の価値を高めたいと考えている方に「ERYBOX」を利用いただきつつ、来年には1000台の流通を目指しています。

ほかにも実は意外なニーズがありまして。宅配ボックスって、防犯対策にもなるんですよ。

「防犯対策」…?
住宅エリアやベッドタウンと言われるような地域では、街灯を何本も設置しようとするとかなり高額になるんですよ。それだったら自販機などを住宅エリアに設置するほうが、その後の売上げも出てくるし、自治体でもスムーズに導入できるんです。

「ERYBOX」もボックスに大きなサイネージ画面があり、そこを広告枠として運用していたりするので24時間明るく、監視カメラもあり、さらに人の行き来も増えます。防犯対策としてただ街灯を立てるよりも、人の往来のきっかけになり、住民にとって嬉しい役割も担うとなると、一石二鳥ですよね。
そう言われてみれば確かに!街灯って高いんだ(笑)。
そういった背景もあって、今地方自治体や公共施設などとの連携を進めているところです。ほかにも、例えば「宅配クリーニング」のボックスとして利用してもらったり、インバウンドの施策として、外国人旅行客の「荷物預かりロッカー」としての利用をしてもらったり。

宅配ボックスをきっかけに繋がる、様々なサービスを検討しています。

ICOを目指してエストニアで法人を設立。そのメリットは?

ちなみに今回のERYBOXの展開に向けて、御社はエストニアでも法人を設立していますが、それはどういった狙いがあるのでしょうか?
これからの予定ですが、やはり「宅配ボックス」という業態自体、収益化までにすごく時間がかかるビジネスなんです。普及に向けた初期の設置にもすごくコストがかかりますし。そういった背景があり、ゆくゆくは ICO(イニシャル・コイン・オファリング)での資金調達をしたいと考えているんです。
ICOで資金調達ですか! 以前「in.LIVE」でもICOの解説動画を公開したりしていましたが、国内ではまだ規制や未確定な要素も多くて難しそうですよね。

そうなんです。なのでこちらに関しては、エストニアの法人から暗号通貨「ERYコイン」を発行して運用する予定です。まだ先ですが、今後はブロックチェーンを活用した機能拡張も考えています。EC事業者から発送された情報や、今どの物流事業者さんが荷物を持っているのかなどの情報をすべてブロックチェーンに書き込むことでオープン化していきたいと考えているんです。

ユーザー自身もその情報を見ることができて、それによって、配送されているリアルタイムでユーザーが受け取り場所を変更できるようにしたりとか。有名な配送会社さんだけでなく、自社で物流網を作る企業やUberのような配送サービスが出てきたりすると、配達証明みたいなものもしっかり考えていく必要もあります。

「ERYBOX」に限らず、オープン型の宅配ボックスが流通することで、今後は受け取り方だけでなく、運び方もどんどん多様化していくと思っています。そうしたシーンで多様に対応できるように、新しい技術も積極的に活用していきたいですね。

なるほどなあ。宅配ボックスが当たり前にある日常、単純に「荷物の受け取りがラクになる」ということ以上の可能性を秘めていることにも気づきました。

本日はありがとうございました!

編集後記

以上、いかがでしたか?
今回の取材を通じて「ERYBOX」の開発秘話やサービス概要だけではなく、日本と中国のIT普及における課題や背景などまで知ることになりました。そして宅配ボックスを通じて、人も、街も、生活もぐっと変わるということ。

日常における一つの動作が変わることで、そこに紐付く様々な生活に変化があります。 そうした点にも注目しながら、技術が導く未来を先読みしてみるのも面白いですよね。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人
田中 伶 アステリア株式会社 コミュニケーション本部・メディアプランナー。 教育系のスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げを経験。話題のビジネス書や経営学書を初心者向けにやさしく紹介するオンラインサロンを約5年運営するなど、難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。台湾情報ウェブメディア編集長も務める。