2017年9月19日

株主総会の議決権行使の実証実験を通して
ブロックチェーンの可能性と今後について聞いてみた

最近では金融のみならず、契約や流通などの分野での活用が注目されているブロックチェーン。
今回は、ブロックチェーンを使った株主総会の議決権行使の実証実験を行ったというインフォテリア株式会社CEOであり、
ブロックチェーン事業推進室室長でもある平野さんと、副室長の森さんに実証実験の結果やその背景をお伺いしました!


はじめまして。ライターの北原です。
みなさんはブロックチェーンを、FinTechだけの技術だと思っていませんか? 実は私も以前はそんな風に思っていました。 ビットコインなどの仮想通貨の中核技術として注目されたブロックチェーンですが、最近では契約や流通などの分野でも応用しようという動きが活発化しています。

私は企業向けITに関連した記事を書くことが多いので、いろいろな技術やサービスを常に追いかけていますが、ここ数年はブロックチェーンの動向がとっても気になっています。

今年の6月にはインフォテリアでもブロックチェーンを使った株主総会の議決権行使の実証実験を行ったという情報を聞き、”これはお話を聞かせてもらわなければ!“ と取材のお願いをしたところ、平野社長やブロックチェーン事業推進室の森さんから、実証実験の経緯や結果、今後の可能性についてお話を聞かせていただく機会をいただきました。

せっかくですので、inLIVE読者のみなさまにも、お話の内容をお伝えします。

平野洋一郎(ひらの・よういちろう)

インフォテリア株式会社 代表取締役社長 / CEO

熊本県生まれ。熊本大学を中退し、ソフトウェア開発ベンチャー設立に参画。ソフトウェアエンジニアとして8ビット時代のベストセラーとなる日本語 ワードプロセッサを開発。1987年~1998年、ロータス株式会社(現:日本IBM)でのプロダクトマーケティングおよび戦略企画の要職を歴任。 1998年、インフォテリア株式会社創業。2007年、東証マザーズに上場。2008年~2011年、本業の傍ら青山学院大学大学院にて客員教授として教壇に立つ。

森 一弥(もりかずや)
インフォテリア株式会社 ブロックチェーン事業推進室 副室長 ストラテジスト

2012年よりインフォテリア勤務。2017年3月までは主力製品「ASTERIA WARP」のシニアプロダクトマネージャーとしてデータ連携製品の普及に務め、特に新技術との連携に力を入れる。2017年4月より新設されたブロックチェーン事業推進室にて実証実験やコンサルティングなどを実施。

聞き手:北原静香(きたはらしずか)
フリーランスライター

ベンチャー企業のエンジニアだった頃にIT系ライターとしても活動を開始。主にクラウドWatchなどのWebメディアを中心に活動している。最近はオープンなテクノロジーと、それらを応用したサービスや製品に興味を持っている。

早い時期からブロックチェーンに注目したことで、ビジネスの幅を広げる結果につながった

インフォテリアは以前からブロックチェーンに力を入れていらっしゃいますが、そのきっかけを教えてください。
ブロックチェーンに興味を持ち始めたのは2012年頃です。当時、新しいテクノロジーへの投資を検討するため、シリコンバレーで開催されたスタートアップ企業支援のイベントに参加したのですが、その頃はビットコインが非常に注目されていました。

さまざまなスタートアップ企業と話をするうちに、ブロックチェーンは必ずしもビットコインのためだけの技術ではなく、単体で切り出して利用できる技術であることを知りました。そして、「企業システムでプライベート ブロックチェーン応用したサービスを提供すこともできるのではないか?」と考えるようになりました。
日本でビットコインやブロックチェーンが注目されるようになったのはつい最近ですが、かなり早い段階からブロックチェーンの技術に注目していたんですね。
ところで、最初からFinTech以外の用途を念頭においていたのでしょうか?
はい、その通りです。インフォテリアでは、さまざまなサービスやデータを”つなぐ”技術である「ASTERIA WARP」を展開していますが、企業にあるデータとブロックチェーンと組み合わせることで、仮想通貨以外にも面白いことができるんじゃないかと考えていました。

もちろん、金融をやらないというわけではなく、つなぐ先が金融であっても、そうでなくても構わないだろうと。むしろ、インフォテリアがこれまであまり得意ではなかった金融分野において、新しいビジネスができるかもしれないという期待はありましたし、実際にそうなってきています。

なるほど。ブロックチェーンのおかげで、これまであまり得意ではなかった分野にも、ビジネスの幅が広がったのですね。

情報を改ざんできないブロックチェーンは、株主総会の議決権行使にベストマッチ

今回の実証実験は、ブロックチェーンをさまざまな用途に応用する活動の一環だと思いますが、なぜ株主総会の議決権行使を対象としたのでしょうか?
最初は社員のアイデアでした。ブロックチェーンを使って株主総会で何かやれないだろうか?という話題になり、それなら議決権行使はどうかという話になりました。実はインフォテリアでは、ミーティングやASTERIAのブログの中で、ブロックチェーンの応用アイデアが話題になることがよくあります。

今回もそんなアイデアのひとつでした。4月には「ブロックチェーン事業推進室」をつくってブロックチェーンの適用領域をさらに広げていきたいところでしたし、「投票」はブロックチェーンの適した領域の一つだと認識していたので、私もすぐに乗り気になりました。
現状では、株主総会において、投票の電子化があまり進んでいないということでしょうか?

信託銀行が提供しているインターネット投票の仕組みはありますし、当社も利用していますが、利用率は当社を含め多くの企業で少ないのが実状です。多大な費用をかけて電子化しても、使い勝手があまり良くないしくみのため、せっかく構築したシステムがあまり使われないという話もよく耳にします。

また、株主名簿や各人の持ち株数といった情報は、信託銀行などが保有していて、投票結果の集計も信託会社に委ねられています。ところが、この集計が本当に正しいのかを証明する方法が現状では存在しないんです。そのため、ひどい場合には、訴訟問題に発展することもあります。

しかし、ブロックチェーンを使えば、信託銀行や株式を発行している企業自身であっても、投票データを改ざんすることはできませんし、証明を求められたとしてもデータの実行履歴をすべて公開することができます。
つまり、ブロックチェーンによって、株主投票の集計結果に透明性を持たせることができるようになったということですね。
まさにその通りです。
投票そのものを改ざんすることができませんし、集計結果に不正や誤りを疑われたとしても、後から集計内容を検証することができます。株主総会の議決権行使だけでなく、投票システムの中核技術として、ブロックチェーンはとても合っていると思います

実証実験に使ったシステムは1か月足らずで準備された!


では実際の実証実験について教えてください。6月の株主総会で行われたわけですが、準備はいつ頃からはじめられたのでしょうか?
アイディアが出たのが4月に入ってから、実際にやろうと決めたのは4月下旬です。
私が聞かされたのは、ゴールデンウイークの直前でした。
そのタイミングでは、作業に取り掛かれるのは連休明けになるのですが、6月1日には株主の事前登録を開始しなければならないので、実質の期間は1か月を切っていました。 なんて無茶ぶりするんだ! と思いましたね(笑)。

すごい! そんなに短期間だったとは。でも、しっかり準備できていましたよね。
かなり頑張りました。(笑)
実証実験とはいえ、一般の株主に投票をお願いするので、画面はわかりやすいものを用意しなければならないですし、PCでもスマートフォンでも利用できる画面を作らなければならない。でも、ゼロから画面作る時間はないので、なるべくお金をかけず広範囲で使えるものとして、今回はGoogle Formsで事前登録の画面と議決権行使の画面を作成することにしました。
今回ブロックチェーンには、「mijin」を使っていますが、これはパートナーであるテックビューロと協力があったからでしょうか?
いいえ、そうではありません。今回の実証実験ではmijinだけでなく、EthereumHyperledgerといった他のブロックチェーンとも比較検討を行いました。その結果、3つの点でmijinが最適だと判断しました。

それは、(1)APIがしっかり用意されていること、(2)投票に使用する複数コインを管理画面から定義できるようになっていること、(3) 限られた期間内で実証実験のしくみを実現するために環境構築が容易であることの3点です。
では、準備期間がもっと長かったり、実証実験の内容が違っていたりすれば、もしかすると違うブロックチェーンを選択していたかもしれないと?
そうかもしれません。
しかし、今回はmijinを選んだことが結果的に正しかったと思っています。
投票の結果はAWS(Amazon Web Service)上で集計されているんですよね?
そうです。といっても、実際には投票結果を集計して表示するHTMLとJava ScriptのファイルをAWSのS3というファイル置き場においてあるだけなので、実際には今回の実証実験用にブロックチェーン以外のサーバーシステムを用意していないんです。結果的にではありますが、流行りのサーバーレスのサービスになっています。

ブロックチェーンらしさを強調するため、敢えて秘密鍵を配布

今回、実証実験に参加された株主には、認証のための「秘密鍵」が配布されていますが、これは何か理由があるのでしょうか。一般の株主には、少し技術的な敷居が高いように感じるのですが…。
はい。今回は、「秘密鍵」の配布を意識して行いました。一般的なIDとパスワードによる認証方式にするのは簡単ですし、本来のアプリケーションとしてはブロックチェーンと意識させないことが重要と考えます。

ただ、今回はあくまで「実証実験」であるという視点で見ると、どのあたりがブロックチェーンなのか株主側からわかりにくいのではないかと考えたんです。

確かに株主からは、Google Formsの画面しか見えないですね。
ですので、ブロックチェーンらしさを強調するため、今回はあえて秘密鍵をメールで配布するというしくみにしています。

株主から使い方が分からないといった問い合わせも何件かくるだろうと覚悟はしていたのですが、実際にそうしたお問い合わせはありませんでした。

世界初となる議決権行使の実証実験は成功!

保有株数によって、異なる票数の議決権を行使するしくみが必要になると思うのですが、どのように実現されたのでしょうか。
インフォテリアの株は100株単位で売買されているため、100株ごとに1票、つまり1トークン(コインのようなもの)を配布しています。これらのトークンを、議題ごとに賛成の箱か、反対の箱に入れていくイメージです。トークンをいずれかの箱に入れると手元からトークンがなくなるので、2重に議決権を行使することはできません。

また、議題ごとに別の種類のトークンが用意されているので、別の議題用のトークンを入れることもできないようになっています。
それぞれの持ち株数はどのように判断したのでしょうか?
今回はあくまでも実証実験ですので、保有株数は自己申告形式にしました。
つまり、だれでも事前に申告しておけば、申告株数に応じた議決権を行使できるということですね。
ああ、それなら大株主として参加しておけばよかった! (笑)
ところで、実際に参加された人数や、投票率などはどうだったんでしょう?

参加申し込み人数は289名で、総保有株数は4,941,300株でした。実際に投票を試みられた回数は191回でしたが、有効数は171回となりました。投票された株数でカウントした投票率は64.84%ですので、日本の国政選挙よりも高い投票率ですね(笑)。

中には秘密鍵の末尾の番号を変えて複数回投票しようと不正を試みた方もいらっしゃいましたが、もちろんエラー処理されていることは確認済みです。
株主は集計結果をAWS上のHTMLファイルを参照して確認するんですよね。
そうです。実はリアルタイムで投票結果を表示できるので、それも公開しようかという案もあったのですが、投票状況によってまだ投票していない株主の判断に影響があるかもしれないということで、株主総会後に結果を公表しました。社内ではリアルタイムで見ていましたが。
なるほど。今回の実証実験で認証や投票の技術として、ブロックチェーンが有効だということがよくわかりました。
ブロックチェーンの実証実験の多くは、エンジン部分の耐久性などを確認するといった内容がほとんどで、今回の実証実験のようなアプリケーションの実証実験はあまり行われていません。そういう意味でも、貴重な実証実験であったと感じています。

ブロックチェーンの可能性と今後のビジネス展望について


今回の実証実験でブロックチェーンの新たな可能性を実証できたのではないかと思いますが、今後インフォテリアでは、どのようなビジネスを展開していく予定でしょうか?
まずは今回の実証実験内容の事業化を検討します。
インフォテリアの株主総会だけではなく、多くの企業にこのしくみを導入できるようにしたいと考えています。今回は実証実験ですので保有株数などは自己申告でしたが、将来はやはり信託銀行とAPIで連携できるしくみは必須です。APIを公開している日本の金融機関はまだまだ少ないですが、ここ1、2年で大きく変化するのではないかと期待しています。

また、株主は自分の持つ議決権を他者に委任することができます。
これは特に、外部株主と経営が対立した場合などに起こるプロキシーファイトでは特に重要な意味を持ちますが、ここもトークンの移転が容易なブロックチェーンは適していると考えています。
私はブロックチェーン事業推進室という部署を担っていますから、さまざまな分野でブロックチェーンを応用し、事業化を推進することがミッションです。最近では、ブロックチェーン事業推進室が主管として「ブロックチェーン業務適用コンサルティングサービス」の提供を開始し、中部電力のエネルギー分野におけるブロックチェーンの活用を検討する実証実験にも採用いただいています。

ブロックチェーンの可能性のひとつとして、私が注目しているのは「スマートコントラクト」と呼ばれるプロトコルです。その名前から契約のしくみだと思っている人は多いですが、実際には特定の条件が満たされた際に、何らかの処理を自動的に実行するしくみです

それはまるで、仮想的な人物をブロックチェーンの中に配置するようなものです。「スマートコントラクトさんに一定のお金を払えば、何らかのサービスを実行してくれる」という挙動をイメージしてみてください。AIやIoTと連携したら面白いことができるんじゃないかなど、いろいろな可能性を感じることができます。

まだまだブロックチェーンはコインだけの技術と思っている人が多くて、ソリューションもコインに関連したものが中心です。この現状をとてももったいないと感じていますし、この壁を突破すればブロックチェーンにはもっといろいろな可能性があるんだということを広く考えています。
インフォテリアは、金融業以外でもブロックチェーンの適用を積極的に進めます。インフォテリアからの提案だけでなく、多くの企業から「ブロックチェーンをうちの業務でも使ってみたい。こんなことに使えるんじゃないか」というアイディアを広く聞き、その実現のお手伝いをしたいと考えています。

これまでもインフォテリアは、コンピュータ同士やシステム同士をつなぐことで、組織やビジネスを柔軟にし、効率化や新しい価値の創造をお手伝いしてきました。クラウドやデータ連携によって、実際に業務の実施部分においては概ね目的は達成されています。

しかし、その前段階にある「どんな業務を行うのか」といった契約などの部分や、業務が終わったあとの支払部分については、まだまだ自律自動化のための連携はできてません。私はこれらの領域において、ブロックチェーンは有効です。たとえばスマートコントラクトで契約内容を自動化したりできますし、支払はブロックチェーンの得意分野です。実現するのはまだ先になるとは思いますが、社会インフラとしてのブロックチェーンの可能性を確信しています。

ブロックチェーンの可能性と今後について聞いてみた!まとめ


今回、平野社長や森さんとお話させていただき、お二人のブロックチェーンに対する熱い想いをひしひしと肌で感じることができました。

XMLコンソーシアムを立ち上げたことで知られる平野社長は、なんと2016年にブロックチェーン推進協会を立ち上げ、ブロックチェーンの適用領域の拡大、国際競争力の増進、技術の共有を目的に精力的に活動しています。「20年ぶりに腰を落ち着けて取り組みたい技術に出会った」とコメントされていたのが印象に残っています。

まだまだブロックチェーンに関する発表は実証実験が中心ですが、実際の業務への適用する企業も少しずつ増えています。ブロックチェーンの波はもうすぐそこまで押し寄せているようです。やはりブロックチェーンの動向からは目が離せません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回の実証実験の結果について詳細を知りたい方へ

今回インフォテリア株式会社にて行われた、株主総会の議決権行使実証実験の結果をホワイトペーパーにまとめています。閲覧を希望される方は、以下フォームにご入力の上、送信ください。ホワイトペーパーをダウンロードいただけるURLをお送りします。
https://goo.gl/iE4HSM


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この記事を書いた人
北原静香
北原静香 ベンチャー企業のエンジニアだった頃にIT系ライターとしても活動を開始。主にクラウドWatchなどのWebメディアを中心に活動している。最近はオープンなテクノロジーと、それらを応用したサービスや製品に興味を持っている。