100年に一度の危機ではない!

 中間決算の報告で、堀場製作所創業者で現最高顧問の堀場雅夫さんを訪ねました。だいぶ以前にアドバイザーになっていただいてから毎年、中間決算と本決算のご報告に京都の本社に伺っています。今年度上期の成績は、前年、予想どちらに対しても好調だったこともあり和やかな報告となりましたが、下期について堀場さんなりのアドバイスをいただこうと「100年の一度の経済危機とも言われていますが・・・」と切り出すと、「平野さん、100年一度の危機なんてことはない。アメリカの言うことを、そのまんま受け売りしちゃいかん。」と一喝されました。

 堀場さん曰く、「第2次世界大戦で受けた日本のダメージは、今回の比ではない。終戦後には、何にも無くなった。物だけでなく人もいなかった。企業のトップはパージされて、それは大変な状況だった。それでも、日本は立ち上がってきたんや。」とのこと。『終戦以来の』と言うならまだわかるが、政府も報道も『100年に一度』を受け売りで使うのは大間違いとのことでした。

 同じく危機的と報道されている円高にも触れられました。堀場製作所が海外進出を始めた1950年代半ば、1ドル=360円の時代。持ち出し外貨は1日、12ドルまでという制限があったので、それ以上に必要なときは米兵に1ドル=500円で交換してもらって、渡航していたそうです。その後、プラザ合意から激烈な円高になって、海外依存度の高い堀場製作所は「もはやこれまでか」と思ったことが何度もあったそうですが、今回の円高も、その頃の激しさに比べれば、たいしたことないと。

 堀場さんとしては、現在の騒ぎ方は、多分に政治や米国ビッグスリーをはじめとする救済を求めている企業のアピール面が強くて、報道はそれに乗って騒いでいるが、日本の経営者はそれで右往左往してはいけないとのことでした。面白かったのは、堀場製作所はつい最近、米国で救済を求めている某社から、 大きな受注をしたとの話。「悪いときは、まともな経営者なら、嵐が去るのをじっと待つのではなく、これまでできなかった改革に手をつける」とのこと。堀場さんの読みでは、その某社は、「お金を入れなければ大変なことになるぞ」と政府にアピールしながら、一方で、今後のためにしっかりお金を使って内部改革に手をつけているとのこと。

 そして、アドバイスとしてはご自身の経験も踏まえて、「不況の時は、売上を追って、慣れないことに手を出すのではなく、次のための仕込みのチャンス」とのこと。堀場製作所では、ずいぶん以前の不況の時に、売上減を食い止めようと、営業が何でも取ってきてやったことがあるが、景気が回復したときに、その本業以外の仕事が足かせになって赤字を拡大してしまったことがあったそうです。その経験をもとに、その後の不況の時には、慣れないことに手を出すのではなく、余った技術者を研究開発に回し、普段は止められない生産ラインを1週間止めて、製造プロセスを刷新したところ、景気が回復したときには、大幅な増益になったと。

 私自身、2002年初頭には倒産の危機も経験しましたが、堀場さんの経験に比べれば、まだ足下にもおよびません。堀場さんと同じような立ち居振る舞いはできませんが、不況だからといって、場当たり的な対処をせず地に足のついた活動をしようと、あらためて肝に銘じて、京都を後にしました。


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