ベンチャーの事業プランが陥りやすい5つの罠

ベンチャーの事業プランが陥りやすい5つの罠
 昨日、スタートアップ経営者や起業志望者の小さな集まりで「ベンチャー企業が陥りやすい5つの罠〜事業プラン編〜」という話をしました。私自身の経験を元に、青山学院の技術系ベンチャーの講座でも話をしていたことですが、この機会にあらためてまとめておきます。
 内容は、一般的に「常識」とされていることでも、ベンチャー企業が事業プランを立てる場合においては、そのやりかたが命取りになってしまうようなこと〜罠〜がいくつもある、ということです。


【1】競合無しの罠 (Competition-less)
 事業プランを説明するときに「競合は?」と聞かれることがよくあります。しかし、「競合はありません!」という返答が結構多いのです。この返答は一見格好いいし、一般的には「すばらしい事業」と思われがちですが、問題が2つあります。
 第1に、人や企業に対する製品やサービス提供(商品)であれば、何某かの競合は必ず存在するということです。例えば、相手が人の場合、1日の時間は24時間と限られています。使えるお金も限られています。新しい個人向けサービスを立ち上げたとして、そのサービスを使う時間やお金を奪い合う競合が必ず存在するのです。第2に「競合が出て来ない」というのは、その事業の価値が低いかもしれないということです。例えば、2年もそのサービスをやっていて「競合はありません!」というのは、事業そのものの価値を疑ってみるべきでしょう。
 インフォテリアが「国内初のXML専業会社」としてスタートした際も、「国内初」ですから一見競合が無いように見えましたが、実際にはXMLで置き換えることになる従来のファイルフォーマット(例えばCSV)は競合ですし、「専業」ではなくても兼業の大手がいくるもあることを無視してプランしたら、それこそ唯我独尊の考えに陥り今頃会社はなかったでしょう。
【2】顧客の声の罠 (Customer Voice)
 事業において顧客の声を良く聞くということは常識です。鉄則とすら言われていますが、ベンチャー企業が顧客の要望に従って事業をプランするのは大きな〜罠〜となります。3つ理由があります。
 第1に、顧客の声は「誰にでも聞こえる」からです。ベンチャー企業よりも、大手のほうがよりしっかりした調査を行い、市場が大きいと見ればがっつり参入してくるでしょう。第2に、顧客の声は「今欲しい物」だからです。商品提供には開発期間が必要だし、その商品はそこから先改良を重ね何年も使うものです。今ではなく将来に視点を置かなければなりません。第3に、顧客の声は「今存在しないもの」へのフィードバックを得られないからです。かのSteve Jobsも「人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいかわからない」と言っています。
 いまや市場シェアNo.1となったインフォテリアの主力2製品「ASTERIA」も「Handbook」も最初のバージョンは「顧客の声を聴かない」方法で産まれました。そして大事なことはセカンドバージョン以降は徹底的に顧客の声を聴き、製品を磨いていくことです。
【3】会議の罠 (Consensus)
 「会議の数」や「会議の時間」がよく問題にされますが、そういうことではありません。ベンチャーの事業プランにおいて会議が〜罠〜である理由は、会議をすることで全員の合意を取ろうという意識が強く働くことです。合意を得るために、さまざまな意見を取り入れ、その過程において折衷、妥協を繰り返すことが問題なのです。
 ベンチャー企業らしい尖った事業を行うには、大企業の会議でで通らないようなことをプランする。これがベンチャーの事業プランに必要な要素です。
 インフォテリアも特に上場後、プロセスを重要視するあまりこの〜罠〜に陥りがちです。私自身かなり意識して各部門や、各ミッションの担当の責任において判断するように仕向けています。ただし、これもマネジメント同士や部門同士の信頼間が無くては逆効果になることもあるので、未だに継続的なチャレンジ項目です。
【4】「詰めが甘い」の罠 (Completeness)
 「詰めが甘い!」と言われてプランが通らないことがよくあります。これが、上司が「大事なところが抜けている」ことがわかって突き返しているようなケースならまだ良いですが、往々にしてあるのが、「ここのデータはどうなっている」「ここは調査されているのか」といった、抜けのない完璧なプランを目指す「詰め」です。
 私に言わせれば、完璧な事業プランなど存在しません。事業はやってみないとわからないことだらけです。ベンチャー企業は、大企業がやっているように完璧を目指したプランを立てる時間があったら、どんどんやってみるべきです。多くの場合、詰められていない残った穴は、とても時間がかかるものだったりします。パレートの法則が成り立つのであれば、残りの2割の「詰め」を行うために、8割の時間がかかるでしょう。つまりこれまでの4倍の時間がかかるのです。だとすれば、その間にトライ&エラーを行えば大企業の5倍の試行ができるのです。
 インフォテリアでは、創業時から「8割OKならGo!」を旨としています。企業ですから管理部門など8割でOKではない仕事もありますが、こと事業プランにおいては机上の詰めを行うよりスピードを得ることのほうが圧倒的に価値があります。
【5】融資の罠 (Cash by Debt)
 5番目の〜罠〜は「融資」です。経営をしていれば資金はできるだけあった方が良い。しかし、大きな挑戦と成長を目指すベンチャー企業なら融資は極力受けてはいけません。なぜなら、融資こそが再チャレンジを阻害する大きな要因だからです。信用力に乏しいベンチャー企業の場合、融資に経営者の個人保証や担保を求められるのが普通です。事業がうまくいかなかった場合、その返済に人生の貴重な時間を使うことになります。返済に5年間会社勤めをしたり、自己破産、離婚などに繋がっている例を近くでいくつも見てきました。一方で、シリコンバレーで、失敗を繰り返しても成功できる人がいるのは、投資による資金調達をしているからなのです。
 大きな挑戦と成長を目指すのであれば、融資ではなく投資で資金調達をすべきです。昨日の集まりでも「融資と投資」の違いを良く分からないメンバーがいました。実際、日本では、このあたりの教育があまりされていません。もし、「私もよくわからない」という人は、少なくともこの点は勉強してから事業をプランしましょう。「起業のファイナンス」という本がお薦めです。
 インフォテリアでは、創業から上場まで、一切融資を受けず、その間に調達した約30億円は全て投資でおこないました。最初の創業で上場できたので良かったですが、事業が失敗した場合にもすぐに再チャレンジできる「仕組み」をプランしていたのです。
 以上の5つの〜罠〜、覚えやすいように「5つのC」にして見ました。これから、事業プランや起業を考えている人の参考になれば幸いです。一方で、これらの〜罠〜が、裏返せばベンチャー事業の「競争力」になり得るポイントでもあると気がついた貴方に「いいね!」です(笑)


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