日証協規定改定騒動にみるTwitterの活躍と人々の反応

 去る6月10日、日本のベンチャー企業に大きな影響を与える1つのルール(規則)の案が発表されました。それは日本証券業協会から出された『新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するための「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正について(案)』というものです。

 私が、これを知ったのが、6月22日。磯崎哲也氏のTwitterでのツイートでした。そして、日本証券業協会のウェブサイトで「改正案」を読んで驚き、この変更が日本のベンチャー企業の環境に大いなる悪影響を及ぼすとして、いくつかのツイートを行ったのです。そして、2日後の6月24日には、私のブログで、本件に対して反対を唱え、パブリックコメント(パブコメ)提出を訴えました。

 「改正案」の内容、問題点、なぜ私が反対を表明したかについては、当該エントリを読んでいただくとして、その展開が、ベンチャー企業の環境に留まらず、Twitterやネット世論の力について、社会ルールに影響を与えた特筆に値するものだったため、読者の皆さんに報告しておきます。

 当初、「改正案」は、6月10日から7月1日までパブコメを集め、7月20日に施行というスケジュールでした。つまり、7月1日までに意見を求めたとしても、時間的に考えてその内容のまま施行されようとしていたことは明らかです。

 しかし、その問題があまりに大きいため、Twitter上で企業経営者、投資家、公認会計士などの関係者が「パブコメを書こう!」というツイート、リツイート(RT)の活動広がりました。そして、多くの人がパブコメを提出するだけでなく、ブログなどでも意見を表明し始めました(下記)。さらに、日本経済新聞でもこの状況を察知し、6月30日の朝刊で取り上げたことで、広く知られることにまりました。結果として、締切ギリギリまでパブコメが続々と届き、300を超えるパブコメが寄せられました。

【ブログ等で意見を表明した方々(一部)】

6月22日 西田隆一氏(TechCrunch)平田大治氏(News2u)吉澤尚氏(弁護士)
6月24日 樋口 理氏(higuchi.com)平野洋一郎 (インフォテリア社長)
6月25日 岡本浩一郎氏(弥生社長)堀江貴文氏
6月29日 大杉兼一氏(中央大学教授)磯崎哲也氏(公認会計士)本荘修二氏渡辺千賀氏(Blueshift Global Partners社長)
6月30日 丸山 宏氏(元日本IBM東京基礎研所長)
7月1日 山口 浩氏(駒澤大学准教授)佐久間裕幸氏(公認会計士)藤田 晋氏(サイバーエージェント社長)三木谷浩史氏(楽天社長、eビジネス推進連合会会長)

 そして、パブコメ締切翌日の7月2日、日本証券協会は異例の「施行延期」「再検討」を発表せざるを得ない状況となったわけです。

 これまで、いわゆるパブコメは、「公に意見を聞いた証拠を残す」ためのものと揶揄されたりしていました。今回、パブコメ活動をする仲間うちでも「出したところで何も変わらないのでは?」という懐疑論があったのは事実ですが、とにかく、出来ることはやろうという形で、ネット上でパブコメ運動を続けてきた結果が、「施行延期」「再検討」です。

 今回の騒動では、もしTwitterがなかったら、これだけのスピードと危機感で問題が伝わることはなかったでしょうし、結果として300を超えるパブコメが寄せられることもなかったでしょう。実際、私が先のブログを書いた時点では、私の知るエンジェル関係の団体の人も、ベンチャーキャピタルの人も問題にしていませんでしたが、パブコメ締切の頃には関係者はほとんど知っている問題となっていました。私は既にTwitterを3年以上使っていて、これまでにもTwitterのスピード、価値を何回も感じていますが、今回は社会ルールに物申すツールとして活躍し、改めてTwitterの威力を感じました。

 一方で、Twitterのツイートを通じて、様々な人の考え方や様子も伺い知ることができます。今回の騒動で、以下の2つの点を改めて感じました。

最初から諦めては何も起こらない

 私が最初問題ツイートをした時点では、「例外規定があるからいいんじゃないか」とか「パブコメしたところで、どうせ変わらない」と言った意見をいくつもいただきました。しかし、私としてはこの件を見過ごすわけには行かず、もし今回力及ばずであったとしても、さらに活動を続けていく覚悟も込めて声を挙げました。もし、みんなが諦めていたら、7月20日には、「改正案」が、協会の予定通りに施行されていたわけです。

「誰が」ではなくて、「何が」を問題にしよう

 今回、私が上場企業社長としては最初に反対を公に表明した後に、「日証協を敵に回さないほうがいい」「もう上場してるのに何の得になるのか」と複数の方からアドバイスをいただきました。また、私の意見に賛成の上場企業の経営者に「ぜひパブコメを出してほしい」とお願いすると、「日証協に目を付けられたくない」「社内の会議体で検討が必要」などという反応もありました。私たちは実際にビジネスを行っている訳ですから、もちろん損得勘定はあるでしょうが、一方で上場企業は自社だけでなく社会に対しても責任があるわけす。日本社会を良くしていこうという思いがあれば、相手が誰であろうが、間違っていると考えることには意見し行動したいものです。

 いずれにしても、今回Twitterを始めとしたネット世論によって、重要な日本社会のルールの一つに影響を及ぼすことができたのは、重要な事実です。今回活動された方々に敬意を表します。また、ネットという新たなツールを上手く使って小さな力の集合が、世の中に影響を及ぼすことができることも確認できました。一人一人の気持ちの中から「どうせ」を排除して、元気のある未来を目指していこうではありませんか。政治や経済を嘆いていても始まらない。自分の手の届く場所でできることはたくさんあります。


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