業界動向」カテゴリーアーカイブ

IRroidは電気羊の夢をみるか?

昨日はエイプリルフール。私のささやかな個人ネタは、Facebookのアイコン替えでした。

昨年は、ソフトバンクのCMをパロったアイコンにしましたが、今年は、QUICK社が行っているIRroidというIR萌えキャラ「繋りあ」ちゃんに1日限定で変身!というのも、逆にIRroidのサイトでは1日限定で、萌えキャラが本物の社長に替わるというエイプリルフール企画が実行されたからです(笑)。

さて、このIRroidという萌えキャラは、その名の通り、企業のIR担当者の代わりをやろうという趣向です。SF「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に出てくるような精巧なアンドロイドにはまだほど遠いものの、IRroidもさらに擬人化が進み、喋りだしたり、ロボット化されたりすると、いつの日かIR担当者いらずというところまで進化するかもしれません(笑)。

ところで、エイプリルフールには、各社が競って面白いパロディーを繰り出してきます。今年もいろいろ出て来たなかで、最も私のツボにはまったのは、東急ハンズラボの「UMER」でした。このパロディは、世界の先進都市でで普及している(しかし日本ではなかなか普及していない)「UBER」を知らないとわからないと思います。こういうネタを持って来るあたり、東急ハンズラボのアンテナの高さを感じさせますね。

この他にも、様々なエイプリルフール企画。年度始めで慌ただしいなか、くすっと笑わせてもらいました。各社のエイプリルフール担当の方、お疲れさまでした。ジョークやユーモアがあまり上手でないと言われる日本人とのその社会において、数多くの笑顔を生んだことと思います。

笑門来福。今年度も多くの皆様、多くの会社に福が来ますように。

日本のエンジニアスタートアップの環境は酷いのか?

元ソフトウェアエンジニアとして、また資金調達をしてスタートアップした一人として、大変気になるブログ投稿がありました。

【とあるスタートアップを抜け、CTOを辞めた話。

内容はまさにタイトルの通りなのですが、私が気になったのはそのなかの「日本のエンジニアスタートアップの環境の酷さ」という節。その中に、こういう記述があります。

「日本の、VCや投資家が技術が全く分かってないのだ」
「投資する側が、技術理解せずに、その先にあるマーケット、ビジネス、社会システムを想像できず、そして、それにリスクを負うことができない」

筆者の気持ちが分からなくはないですが、「全く」や「できない」ということはありません。インフォテリアも「XML」という当時は極めてニッチな技術でしかも、その専業でスタートしたにもかかわらず、理解をしていただいた投資家はいました。その後、15年以上の間、国内外のVCや投資家と付き合ってきましたが、国内で技術が分かっている人は少数ですが全くいないわけではありません。一方でシリコンバレーなどは技術がわかっている人は確かに多くいます。

では、なぜ「少ない」のか?これはエンジニア側にも問題があります。それは、

  1. 日本では、エンジニアスタートアップの数が極めて少なく、技術がわかるVCや投資家のニーズが少ない。
  2. 筆者が挙げているシリコンバレーにおいては、技術がわかる投資家の多くはエンジニアの経験がある。

つまり、国内ではエンジニアがエンジニアの枠内に留まったままずっと雇われエンジニアであるために、外に出てスタートアップするケースが少ない事、エンジニアの枠から外に出て経験を活かした別の仕事につく人が少ない事、に筆者が嘆く事象は起因しているのです。

「環境」について補足しておきましょう。国内の資金調達の環境ということから言えば、インフォテリアが創業した1998年よりも圧倒的にスタートアップ投資への理解も実行も進んでいます。一方で、ブログではシリコンバレーのY-Combinatorの存在が挙げられていますが、彼らが、何ミリオンUSドルというような大きな投資をするのではなく、ある意味VCへのフィルタリングのような存在です。また、Y-Combinatorを卒業してもVCのオファーを受けられない企業もたくさんあります。

インフォテリアもY-Combinator企業に複数投資していますし、社外取締役には、シリコンバレーのVCの現役CEO(Anis Uzzaman:彼も元エンジニア)がいるので、目の前の話として知っています。とかく、シリコンバレーは憧れ先行になりがちですが、日本に届いている記事や噂だけで判断しないよう注意が必要です。

いずれにしても、エンジニアがエンジニア外の事を嘆いているだけでは何も変わらず、エンジニアこそこういう状況を変えられるのです。

「日本のエンジニアよ、もっともっと外に出よう!」

これが私の言いたいことです。「外」は、いまの会社の「外」、エンジニア「外」の仕事、もちろん国の「外」だってかまいません。とにかく、エンジニアスタートアップは少な過ぎるし、エンジニアを活かして他の仕事をやろうという人も少な過ぎる。「マネジメントは格好悪い」だとか「お金のことを考えるのは格好悪い」だとか、エンジニア原理主義のようなものを聞く事があります。しかし、仕事である以上、役に立ってナンボ。お金は価値創出のバロメーターです。私は、元ソフトウェアエンジニアだったことを今でも大変誇りに思っていますし、だからこそ出来た事がいくつもあります。

ソフトウェア業界にいると、そして元エンジニアという立場にいると、エンジニアの嘆きを聴くことが本当に多いのですが、腕に自信があるなら、自信があるからこそ、外に出てみましょう!そこに新しい人生を創ることも、社会の変化への貢献もできるはずです。

生きているうちに「イスカンダル」に行くことになるとは!!

「イスカンダル」と言えば、「宇宙戦艦ヤマト」!私と同世代でなくてもそうでしょう。

「宇宙戦艦ヤマト」に出て来る「イスカンダル」は、地球から14万8千光年離れた大マゼラン星雲サンザー太陽系の第8番惑星です。地球と同じように生命体があり、宇宙戦艦ヤマトは、その星にあるというコスモクリーナーを求めて「♪銀河を離れ イスカンダルへ はるばるのぞむ〜」のでありました。

つまり私にとって、そして多分多くの日本人にとって「イスカンダル」とは、スクリーンの中の存在、自ら行ける場所ではない存在であったわけです。

しかし!正に今、私は「イスカンダル」に向う道中にいるのです。

しかも!宇宙戦艦ヤマトがワープを駆使しながら急いでさえ1年かかったという道中を、なんとこれから1時間で行くというのです。いくらインフォテリアが「ASTERIA WARP」を持っているからと言ってもリアルなワープは不可能です(笑)

と、書いている間に「イスカンダル」に着いてしまいました(笑)

シンガポールからバスで1時間弱。そう、ここはマレーシアの「イスカンダル」という場所(写真)です。「イスカンダル」は、マレーシア政府の肝いりで開発されている人工的な大都市です。2つの橋でシンガポールと陸続きになっています。この2つの橋から広がるように建設されていることからもわかる通り、土地の少ないシンガポールのエクステンション(拡張)という位置づけで開発されています。

地図でもわかる通り、「イスカンダル」は、シンガポールの国土(地図の下部の島全体)より広く、国境を挟んだ新たな経済圏となるべく積極的に開発されている場所です。既に、食品産業、ヘルスケア産業、教育機関などが誘致され動き始めています。残念ながら、イスカンダル地区開発局(IRDA)のプレゼンテーションの中には、日本企業は1つもありませんでした。(日本の商社がからんでいるプロジェクトはいくつもあるらしいのですが、個別に認識されるほどではないということです。)

今年は、アジア版EUと言われる「AEC」(ASEAN Economic Community)がスタートする年です。ASEANを構成する10ヶ国の域ないで「ヒト・モノ・カネ」がさらに自由化され1つの経済圏が生まれます。それに先行して、「イスカンダル」のように国境を挟んだ経済は既に東南アジアのあちこちで始まっています。例えば、ミャンマー南部⇔タイ中部⇔ラオス南部⇔ベトナム中部を結ぶ「東西経済回廊(East-West Economic Corridor)」や、バンコク⇔アランヤプラテート⇔プノンペン⇔ホーチミンを結ぶ「南部経済回廊(South Economic Corridor)」も発達してきています。日本は、海に囲まれているため、このような国を超えた躍動を感じることはありませんが、国が陸続きであることの違いとポテンシャルを改めて感じます。

「宇宙戦艦ヤマト」では、「イスカンダル」は悲しい最期を迎えますが、こちらの「イスカンダル」はASEANの成長やAECの発展に支えられ、新しい東南アジア経済圏をリードする存在になっていくことを期待して、地球の「イスカンダル」に足を踏み入れました。

UUIの先駆者となるか?「Flow」が人気です

インフォテリアの出資先、ドイツのSenic社が新しく発表した「Flow」という新しいデバイスが人気です。INDIEGOGO(インディゴーゴー)というクラウドファンディングで先行ユーザーの募集をしたところ、最初の10日間で目標金額の2倍をクリアしました。

Senic社は米国のY-Combinatorを卒業した会社の1社です。インフォテリアが出資していることは、いままで投資家向け情報でしか公開していませんが、昨年Y-Combinatorの卒業直後に出資を行い、支援をしています。

さて、この「Flow」という新しいデバイスは、コンピュータやスマートデバイスの操作を「画面の外」に持ち出して、人の体感を活かして制御するためのデバイスです。現在、コンピュータのソフトウェアの操作は、マウスにしろタッチにしろ全て「画面の中」で行いますが、「Flow」を使うと人間の手の感覚を活かして操作することができます。

例えば、私がよく使うプレゼンテーションソフトには図形を回転させる機能があります。そのユーザーインターフェイスは下図のようになっていて、回転角度を調整するには、のツマミをマウスで回す、の数字を直接入力する、の数値増減のボタンをマウスで押すという3通りもの方法が用意されています。①のツマミでの調整がGUI的には一見一番簡単そうに見えますが、実際はこのツマミをマウスで操作して思う所に合わせるのは容易ではありません。

そこで、「Flow」。「Flow」を使うと、このUIを画面の外に持ち出して、手の感覚で直接回転させることができるのです。まさに「直感的」。「Flow」は写真のように極めてシンプルなデザインですが、直感的な操作は「回転」だけではありません。他に、表面への「タッチ」、表面での「ジェスチャー」、表面からの「距離」など、さまざまなインプットをすることが可能です。このビデオを見てください。

重要なポイントは、このデバイスが「プログラマブル」であるということです。つまり、「Flow」は様々なアプリケーションや用途に応じて、手の動きとコンピュータの操作の関連性をプログラムできます。現時点では、まだPCやスマートデバイスの制御が主な用途となりますが、IoTがもっと普及してくれば、様々なIoTをシンプルに操作するUIにもなり得るのです。

コンピュータが、テキストのみの時代からグラフィックを駆使できるようになってGUI (Graphical User Interface)が産まれました。これから、IoTの普及によって様々な場所で様々なデバイスを駆使できるようになると、画面が無くても操作が可能なUUI (Ubiquitas User Interface)が産まれるでしょう。

Flowは、単に既存のGUIソフトウェアを使い易くするのではなく、そんな近未来のUUIを具現化した入力デバイスなのです。

ところで、世界のイノベーターたちに人気の「Flow」ですが、日本からの応募はまだ少ないようです。IoTに興味のある方は、こちらからぜひ一つ手に入れてみてください。

※最短で入手できる「Developer Edition」は既に売り切れです。

ASTERIAで、kintone雲に乗ろう!

昨日、サイボウズの青野社長を迎えて、ついにASTERIA WARPの「サブスクリプション」(月額利用料型)とkintoneアダプターを同時に発表し記者発表会を行いました。会見では、青野さんからも「kintoneアダプターを待っていました。インフォテリアとの連携を成功させていきたい。」との力強い言葉をいただき、これから、クラウド時代の企業向けソフトウェアを一緒に牽引していきたいとの思いを共有しました。

さて、「kintone」は、ご存じの方も多いと思いますが、既に1,900社を超える企業で使われている、クラウドアプリケーション開発ツール。名前の由来は、「西遊記」で孫悟空が乗っている「キント雲」です。雲=クラウドに乗って、自在に迅速に動けるということを意図してつけられた名前です。kintoneを使うとシンプルな業務アプリを月額使用料だけで自在に迅速に作ることができます。しかし、kintoneでの業務アプリが増えていくと中には既存のシステムやExcelのデータと連携したいことが出てきます。

そこでデータ連携No.1のASTERIA!となるわけですが、これまではASTERIAがkintoneのように月額で使える提供形態はありませんでした。今回、このようなクラウドサービスとの連携や、短期的な利用のために、クラウドだけでなくオンプレミス(設置型)での利用も含め「サブスクリプション」という新しい月額使用料型のモデルを開始することにしたのです。

記者会見では、このモデルを開始することで、売上が落ちるのではないか?との質問もいただきましたが、全く逆です。現在ASTERIAを購入いただくお客様は、データ連携やその基盤として長期利用がほぼ全てで、長期利用の場合にはサブスクリプションよりも従来の一括購入の方がコスト的に安くつくため、サブスクリプションを選ばれるケースはとても少ないと考えています。それよりも、いままでASTERIAをご利用いただけなかったようなシーンに、新たにASTERIAをご利用いただけることで、企業や社会を「必要な時にだけ繋ぐ」ことができる変化に対して柔軟性の高い構造にしていくことが大きな貢献になると考えています。つまり、中長期的には、大きな価値を出せるため、売上としても十分に大きな好影響を出せると期待しています。

ASTERIAの「サブスクリプション」そして、kintoneアダプターによって、さらに多くの企業がkintone雲(キント雲)に乗ってクラウド時代を駆け抜けていく未来を想像しています。

Japan IT Day in Singapore 開催

MIJSコンソーシアムが主催する「Japan IT Day in Singapore」が先週無事終了しました。

このイベントは、日本のソフトウェアプロダクトをシンガポールの日系法人や現地法人の方々にもっと知っていただき、会員企業の東南アジア進出の足がかりとすることを狙ったものです。イベントの中心としてセミナーを据え、会員企業の製品展示も併設するという形で実施しました。今回がシンガポールで初めての開催となりましたが、シンガポール政府EDB(Economic Development Board = 経済開発庁)のサポートもいただき、写真の通り盛況のうちに終了しました。

来賓代表として特別講演を行っていただいたのが、EDBのCorporate Planning局長Clerance Chua氏(写真)。講演は最初から最後まで全編日本語、しかも極めて流暢に話されて大変驚きました。なぜ、そんなに日本語が上手いのかと聞いたら東京大学卒業とのこと。氏のお話は、シンガポールでビジネスをすることの優位性。実際、ソフトウェア業界では、日本を含むアジア全体の本部(Head Quarters)をシンガポールに置く事は常識となっていることからもわかりますが、政府がIT企業と頭脳の誘致に特に力を入れていることを再認識しました。

私はMIJSの理事長として、Chua氏に続いて挨拶を行わせていただきました。お話したことは、私が感じている、アジア経済の中心としてのシンガポールの勢い、ポジション、さらにハイテク産業に関する政府政策の熱意、そして、MIJSの狙いが、日本のソフトウェアベンダーから世界に羽ばたく企業を輩出することです。そして、インフォテリア自身もその第1号になることを強く意識し、シンガポール現地法人の正式稼働前ではありますが、日本のマーケティングチームのヘルプを得ながら展示も行いました(写真)。

今企業向けソフトウェアは、圧倒的な輸入超過の状況にありますが、日本のソフトウェアが世界市場で役立つ日、つまりソフトウェアが輸出産業になる日が必ず来ると確信しています。ソフトウェアは、かつて輸入から輸出に転じた家電や車よりもさらに日本の環境に合った産業材です。なぜならば、家電や車と違い、他国からの原材料の輸入を必要としないからです。資源も国土も少ない日本が自ら産み出すことの出来る数少ない産業として、日本国政府としても国策として重点的に力を入れて欲しいとあらためて強く感じたイベントでした。

ベネッセの個人情報漏洩事件とモバイル活用対策

ベネッセの個人情報漏洩事件は、犯人も逮捕され、収束に向かいつつありますが、この事件を受けて、これから大変になるのは、企業の情報セキュリティ担当者でしょう。

今回の事件は、委託先企業の社員の所業とは言え、各企業で号令が出ているのは、「社員であろうが誰であろうが、システムにアクセスできる人がこのようなことを起こさないシステムとする」ということは容易に想像がつきます。

一方、昨今は企業でのモバイル活用が進み、いつでもどこでも情報にアクセスできることで社員と現場の生産性の向上を図っている企業も増えています。そのような中、漏洩の対策として、モバイル活用の機運に水が差されてしまうことを大いに懸念しています。つまり、以前のノートパソコン一切禁止の流れのように、セキュリティ強化の一貫としてモバイル機器の活用を一切禁止する企業が多く出て来ないかという懸念です。

今回の事件のような事象への対策として忘れてならないポイントが一つあります。それは、閲覧とデータ持ち出しの大きな違いです。

今回、100万件を超える漏洩ですが、このような件数を外部に持ち出すには、機器からデータベースにアクセスできるだけでなく、そのデータを生のファイルとして扱う事ができるということが必要です。例えば、データベースがアクセスできたとしても、そのデータを画面ショットだけでしか取得できないのであれば、100万件を超える件数を持ち出す事は実質的に不可能です。

この意味において、Handbookでの情報共有がファイル共有に比べてセキュリティが高いということを今一度強調しておきます。Handbookは、様々なファイルをHandbook内で表示し、管理者が明示的に指定しない限りHandbookの外に持ち出すことはできません。しかし、DropBoxのようなファイル共有ツールやメールの添付ファイルなどは、そもそも生のファイルを取り出して、GoodReaderなど他のソフトで使うことを前提としています。さらに、Handbookであれば、メール添付と違い情報を閲覧した履歴や、ダウンロードした履歴もとる事ができます。

このように、似たような用途に使えるソフトウェアであっても根本のアーキテクチャーの違いによって、情報持ち出しのリスクを大きく低減することが可能なのです。

また、今回はセキュリティに注目があたっていますが、企業でモバイル機器を活用するにあたっては、セキュリティ以外にも注意すべきポイントはいくつもあります。

インフォテリアでは、Handbookに限らず、これまでに蓄積した多くのユーザー事例や私たちの知見を基に、このたび「現場が喜ぶタブレット導入完全ガイド」という書籍を執筆し、発刊しました。この本は、インフォテリアの有志(インフォテリアモバイル研究会)が執筆した本ではありますが、Handbookの解説書ではなく、モバイル機器、特にタブレットを企業導入する場合に、押さえるべきポイントをまとめたものです。

企業における現場の生産性を上げたいけれども、数々の課題にどう対策していくかを懸念されている方に、最適の一冊とすべく上梓しました。ぜひご一読ください。

【書籍プレゼント企画】
出版に当たり、執筆者、編集者が登壇する記念イベント「『現場が喜ぶ タブレット導入完全ガイド』出版記念セミナー」を開催し、イベント参加者へは、この書籍をプレゼントさせていただきますので、ぜひご参加ください。詳細は、こちら

「アナと雪の女王」と企業向けソフトウェアの未来

わかってはいましたが、プロの仕事を見ると唸ります。

先日、話題の「アナと雪の女王」を観ました。評判通り、心に刺さるとても良い作品でした。しかし、唸ったのは帰宅してからです。映画館でみたのは日本語への「吹き替え版」ですが、映画を観終わって買って帰ったサウンドトラックCDは、日本語版と英語版の両方が入っているものでした。この映画は多分にミュージカル構成になっていて、ストーリーが歌で展開する部分も多く、歌だけでもだいたいのストーリーをイメージできます。

そこで、オリジナルの英語版にも触れてみようと、英語版の曲を聴いたところ、日本語版の歌詞が翻訳ではなく、また意訳も超えた、あえて言えば「超訳」とも言えるものだとわかり、そのプロの仕事に唸ったのです。例えば、「Let It Go」日本語版の「ありのままに」の出だしはこうです。

 降り始めた雪は 足跡消して
 真っ白な世界に ひとりのわたし
 風が心にささやくの
 このままじゃ ダメなんだと

同じ部分の、英語版の歌詞はこうです。

 The snow glows white on the mountain tonight,
 not a footprint to be seen.
 A kingdom of isolation and it looks like I’m the queen.
 The wind is howling like this swirling storm inside.

日本語版には、山(mountain)も、王国(kingdom)も、女王(queen)もありません。しかし、それでいてこれが映像を伴うとその雰囲気も感情も十分に伝わります。いや、十分にどころか翻訳を遥かに超えて。念のために、CD添付の歌詞カード(=翻訳)だと、同じ部分はこうです。最初の日本語歌詞と比べてみてください。

 今夜の山は 雪が白く輝いて
 足跡ひとつ見えない
 まるで孤独の王国 私はその女王って感じ
 心の中で渦巻く嵐のように 風が唸ってる

この翻訳があれば、できるだけ翻訳を活かしたい、オリジナルに忠実でありたいと思いますよね。しかし、どちらが心に刺さって来るかというと明白です。オリジナルがあったとしても、クリエイティビティを発揮して、アートの領域に高めるプロの仕事に唸るのです。

映画の領域で仕事をされている方々にとってみれば、こういうことは当たり前のことかもしれません。「何を今更!」と。しかし、私たちが仕事をしている企業向けソフトウェア領域からすると、かなりの違いがあります。

企業向けソフトウェアにおいても、従来の機能一辺倒のソフトウェア開発から、最近はUX(ユーザーエクスピリエンス)に注目が集まり、またゲームの要素を取り入れるゲーミフィケーションなども進んでいますが、このような人の感性まで揺さぶるレベルではありません。しかし、こういったアートと呼べる領域の仕事は、ソフトウェアには関係ないでしょうか?

これらの領域は、クリエイターやアーティストの仕事領域であることは明らかです。しかし、これからは企業向けソフトウェアであっても、個人が持ち運ぶデバイスで、個人が使い易いもの、個人の生産性が上がるものがより重視されるようになります。そのような環境においては、私は機能だけでなく感性による評価も大きな部分を占めるようになると感じるのです。

ですから、ソフトウェア制作においても、オリジナルを作る開発メンバーはもちろんのこと、ローカライズのメンバー、そしてマーケティングや営業のメンバーでさえも、そのアウトプットを妥協のないアート領域に高める仕事が出来るチームがこれから先のソフトウェアをリードしていくのではないでしょうか。特に、世界を目指すのであれば、翻訳ではなく、要望を取り込むだけでもなく、それぞれの言葉や文化の壁を溶かして個々の人たちに心に刺さるソフトウェアを提供していきたいと感じ、そのためにどういった取り組みができるかに想いを馳せるのです。

MIJSコンソーシアムの理事長に就任

MIJSコンソーシアムという団体があります。MIJSとは、Made In Japan Softwareの略。つまり、日本で創られるソフトウェアのことです。MIJSコンソーシアムの理事長に、この4月から就任しました。

MIJSコンソーシアムは、「日本で創られるソフトウェアを世界に提供していこう」、「世界で通用する力を個々の開発企業がつけていこう」という同じ志を持ったソフトウェア開発会社の集まりです。私自身、コンピュータのソフトウェア開発を生業にして30年。そのうち10年強は世界市場でソフトウェアを提供している外資系の会社に在籍し、世界規模で役立ち、世界規模で提供されるソフトウェアがどのように開発されマーケティングされるのかを見て来ました。そして、

私は確信しています。
日本からも世界に役立つソフトウェアを輩出することができると。

その確信を基に、私はインフォテリアを創業し世界を目指し続けています。しかし、日本のソフトウェア開発会社にまだ足りないところが多々あることも事実です。

例えば…
・受託開発中心の企業が多く世界的なスケーラビリティに乏しい
・製品仕様は国内環境しか考えられていない
・マーケティングが営業の一部としか位置づけられていない
・資本と組む、時間を買うといった経営感覚に乏しい
などなど、世界市場で先行する欧米企業と戦っていくためには私たちが力をつける必要があることが数多くあります。

これらのことを個々の企業で学び、じっくりと成長していくこともできます。しかし、欧米企業に規模でもスピードでも大きな差を付けられている現在、悠長なことは言ってられません。いかに時間を短縮してキャッチアップし、そして戦いで勝ち始めるか。その手法の一つがMIJSの活動です。

私は確信しています。
ソフトウェアこそ資源も国土も無い日本に最適な産業の一つであると。

だからこそ、世界を目指す企業それぞれの知見や経験を共有し、学びと実施の速度を上げ、世界に通用する産業にしたいのです。そのためには、まずソフトウェアの「野茂英雄」(日本人初のメジャーリーガー)を輩出し、そして多くの企業がメジャーリーガーとなっていく。MIJSが目指すのは、決して多くの業界団体にあるような「護送船団」ではなく、個々プレーヤーつまり個々の企業の戦う力をつけることです。

現在、MIJSは70社を超えるソフトウェアプロダクトベンダーの集まりとなっています。私自身は、その全体を率いるには力不足ではありますが、副理事長にエイジアの美濃社長とNTTデータイントラマートの中山社長に就任していただき、またコンソーシアム活動の中心となる4つの委員会の委員長には、サイボウズの青野社長をはじめ経験豊かな4名の方に就任していただいたことで、さらにパワーアップした活動が展開されようとしています。

私は確信しています。
MIJSから、ソフトウェアの野茂英雄を輩出する事ができると。

・業界の寄り合いではなく、成果を出すコンソーシアム。
・社長自らが参加し、経営レベルでコミットするコンソーシアム。
・濃く!熱く!楽しい!コンソーシアム。

それが、MIJSです。

いずれ、多くのソフトウェア開発企業が世界で活躍し始め、MIJSというコンソーシアムそのものが必要無くなる日を目指して、理事長を務めさせていただきます。

私は確信しています。
いつの日か日本がソフトウェアを輸出産業に出来ることを。

企業IT投資がリーマンショック前に改善

 IT投資指数の変化(2001〜2014年度予想)

出典:ITR「IT投資動向調査2014」

今週火曜日(12月3日)、国内有数のリサーチ&アドバイザリー企業である株式会社アイ・ティ・アールから「IT投資動向調査2014」の結果が発表されました。

特に今回のハイライトは、国内企業のIT投資増減指数が「リーマンショック」前の水準を回復したことで、プレスリリースのタイトルにもなっています。

実際に、国内企業向けソフトウェアが売上のほぼ100%であるインフォテリアの売上高で見ても、同じ傾向が読み取れます。以下のグラフは、インフォテリア過去5年の対前年伸び率の推移です。(直近値で比較するために上半期で比較)

インフォテリアの売上高前年比の変化(2008年度上期〜2013年度上期)

出典:インフォテリア株式会社決算短信

このように、リーマンショック以降1桁台だった伸びが、ベンダー側でも今年度に来て顕著に伸びていることがわかります。

さて、問題は企業の投資力がリーマンショック以前に回復したとしても、投資内容はリーマンショック以前に戻してはいけないということです。

なぜなら、2008年以前の段階では、まだクラウドもスマートデバイスも本格的に企業導入できる段階ではなく、ほとんどの企業の投資がオンプレミスに向かっていたからです。一方、現在、2013年の段階ではクラウドもスマートデバイスも劇的に進化しました。

私は、以前から「企業IT投資のスマイルカーブ」と題して、投資領域をオンプレミスからクラウド&スマートデバイスにシフトするよう推奨しています。それは、同じ投資をするのであれば、よりリターン(効果)の大きい領域に投資すべきという当然至極な理由です。

オンプレミスの領域には、大きなイノベーションはなく、またここ20年の程の投資によって企業競争力に資する投資はなかなかありません。一方で、クラウドとスマートデバイスのイノベーションは劇的で、この効果をどのように取り入れるかで、コトラー先生に倣えば「コスト戦略」、「差別化戦略」に大きく寄与することができるのです。

IT投資領域のスマイルカーブ(投資効果領域の変化)

(C) 2010-2013 インフォテリア

この事実を、縦軸に投資効果、横軸にユーザーからの距離をとると、図のようなスマイルカーブになります。企業IT投資が戻ってきたという状況の中で、金額だけでなく、投資領域も意識しなければ、無駄になってしまうことを強く意識すべきでしょう。

インフォテリアは、まさにこのスマイルカーブを意識した投資で大きなリターン(価値)を得ることのできるソフトウェアの提供に注力しています。「つなぐ」ASTERIAと、「伝える」Handbookで、1社でも多くの企業の競争力強化に貢献したいと考えています。