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世界へ羽ばたけ!日本のスタートアップ

昨日、東京国際フォー-ラムで「Startup World Cup 2018」の日本代表を決める日本予選の決勝戦が開催されました。これは、世界中のスタートアップ企業がワールドチャンピオン(世界No.1)を目指して行う唯一の世界規模のコンペティションです。今回は前回の倍の規模となる世界32ヶ所(30ヶ国)もの地域で予選が行われますが、その1つが日本。日本では70社以上の応募の中から、10社が決勝にノミネートされました。そして、私はその審査員長を務めました。

決勝ピッチコンテストに残った日本代表候補は以下の10社ですが、あなたが知っている企業はあるでしょうか?

・セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(洗濯物折り畳みロボット)
・カラフル・ボード(感性を個別に解析するパーソナルAI)
・THEO:お金のデザイン(ロボアドバイザー資産運用)
・Empath:スマートメディカル(音声による気分解析技術)
・ユニロボット(次世代型ソーシャルロボット)
・FOLIO(テーマを選んで投資ができるオンライン証券)
・ディライテッド(オフィス受付システム)
・エイシング(機械制御向けAI)
・メビオール(安全で高栄養価の農産物を生産するフィルム)
・リアルワールドゲームス(位置情報ゲームプラットフォーム)

各社毎に行う、30秒の紹介ビデオ、3分30秒の英語でのプレゼン、1分30秒の質疑応答で全てが決まります。7倍超の倍率の中から選ばれただけあって、どのスタートアップも大変レベルの高い決勝戦となりました。その審査を行ったのは、私以外に以下の7名です。

・一橋大学イノベーション研究センター 特任教授 米倉誠一郎 氏
・株式会社セガゲームス 代表取締役社長 COO 松原健二 氏
・経済産業省 新規事業調整官 石井芳明 氏
・株式会社gumi 代表取締役社長 國光宏尚 氏
・株式会社サムライインキュベート 代表取締役 榊原健太郎 氏
・デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 事業統括本部長 斎藤祐馬 氏
・Plug and Play Japan Managing Partner – Phillip Seiji Vincent 氏

審査は、審査員による下記の7つの評価軸とTwitterによる人気投票を加味して行われます。

<7つの評価軸>
・事業を始めた経緯・問題意識
・市場規模・ニーズ
・トラクション(ユーザー数や売上の伸び)
・競合優位性
・ビジネスプラン(拡大可能性や収益性が明確か)
・チーム構成やメンバーの経歴
・プレゼンテーションの説得力

各審査員が7つの評価軸に対して持ち点10点、合計70点で評価。集計の結果としては、上位3社がかなりの接戦となりました。そこで、最終的な審査員の協議も侃々諤々。日本代表を決めるのに審査時間ギリギリまでかかりました。

そうして決まった日本代表の発表の前に、スペシャルスポンサーのCAC特別賞が発表されました。CAC特別賞は投資資金として5,000万円の副賞が付く賞で、世界大会には行かないものの、大変価値の高い賞です。

CAC特別賞は…

メビオール株式会社!

以前に研究していた透析膜を応用して、あらゆる場所で安全で高栄養価の農産物の生産を可能にするフィルムを開発・製造する会社です。プレゼンでは実物も披露されました。

会場は興奮冷めやらぬ中、いよいよ日本代表の発表です。

日本代表は…

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社!

世界的にもユニークな洗濯物折り畳みロボット「ランドロイド(/ laundroid)」を開発する会社です。来年5月11日のサンフランシスコで世界決勝大会に臨みます。

前回のStartup World Cupでは、日本のユニファ株式会社がワールドチャンピオンとなりました。今回、優勝したセブンドリームには、ビジネスもプレゼンももっと磨いて、2連覇を目指して欲しいと思います。

こうやって、日本のスタートアップが世界レベルの活躍をし、プレゼンスを示すことで、日本のスタートアップがもっともっと増えて、世界に羽ばたくスタートアップが次々と出てくることを願ってやみません。

 

英国メイ首相来日イベントで登壇

大変光栄なことでした。

去る8月31日に、英国のメイ首相の来日に合わせて都内某所で開催された「Japan UK Business Forum」という200名以上の日英経済関係で活躍されている方々が参加するカンファレンスのパネルディスカッションに登壇しました。(英国当局からの要請で、これまで公開することができませんでした。)

このパネルディスカッションは、安倍首相のスピーチ、メイ首相のスピーチ、両国政府機関の調印の後に、「Innovation through Partnership」というテーマで行われました。もちろん全編英語です。

■登壇者(写真左より)
モデレーター:駐日英国大使館 原子力担当一等書記官 化学博士 Dr. Keith Franklin
日:インフォテリア株式会社 代表取締役社長/CEO 平野 洋一郎 (Pina Hirano)
英:Cavendish Nuclear社 チーフ・エグゼクティブ Mr. Simon Bowen
日:丸紅株式会社 電力・プラントグループCEO 柿木 真澄 氏 (Masumi Kakinoki)
英:Cambridge Consultants社 戦略的イノベーション 責任者 Mr. Arend Jan Van Bochoven

まずは、各メンバーの英国との関わりに関する自己紹介から。私は、これからビジネスソフトウェアでもデザインが重要になると考え「デザインファースト」のソフトウェアを開発する戦略を持っており、以前からデザインに長けたパートナーを世界中で探していたこと。最終的に、4月に買収したThis Place社にたどり着いたことを話しました。また、国を跨がった連携は大企業のものだけではなく、インフォテリアのような小規模の会社でも重要な意味を持つと強調しました。

そして、なぜ英国企業をパートナーに選んだのかと質問されました。私は以下のような主旨の話をしました。

「正直に言うと、最初は英国は眼中になく、主に米国の会社を探していました。しかし、約3年前に英国大使館の紹介で、実際にロンドンとマンチェスターに行って10社以上のスタートアップに会う機会を得ました。そこで感じたのは、英国にもこんなにイノベーティブでクリエイティブなスタートアップがあるのか!ということでした。日本で「イノベーション」というと誰もがシリコンバレーと言いますが、ロンドンもヨーロッパ各国からスタートアップが集まり活気に満ちていました。私たちはデジタルデザインのThis Placeと仕事を始め、その結果としてアウトプットも素晴らしく、企業カルチャーも相性が良かったことから、買収にいたりました。」

会場からの質問で、話題はどうやったら日英企業間でパートナーシップを成功させられるかという話に移ります。

英国と日本は、島国であることや、文化や、環境などが似ていてること、両国の関係の歴史も長いことなどから相互理解しやすく、またそれぞれの国で暮らすなどのことで、さらに良い協業が築けるだろうなどの意見がパネラーから出されました。

それに対して私は、「類似点の議論がありましたが、イノベーションという観点からは、『違う』ことがある点が重要です。同じ環境、同じ考えをもったモノリシックな集団からはイノベーションは起こりにくいでしょう。イノベーションとは『新しい組み合わせ』(注:Joseph Shumpeter)から起こることが少なくありません。異なる考え、異なる地域の人々が協業し刺激しあうことで、イノベーションに寄与するでしょう。」という主旨の意見を述べました。

会場からの次の質問は、「イノベーションを生み出すには、どのようなマネジメントプロセスが必要か?」とういうものでした。

パネラーの一人からは、イノベーションを生み出すためのマネジメントプロセスの考え方についての意見がありましたが、私は「イノベーションは、マネジメントプロセスからは生まれない」と応えました。その理由として、「イノベーションの生まれるのは、マネジメントが必要な前段階のアイディアだったり、『思い』だったりする。そのアイディアが具体化する段階でマネジメントプロセスを考えるのが順番」という意見を述べました。

また、「いまはビザ取得などの問題もあるが、日英間の交流をさらに進めるにはどうしたらよいと思うか?」という質問が出ました。

私は、「ソフトウェア業界においては、交流の前に日英お互いのプレゼンスが低すぎます。ソフトウェア業界ではシリコンバレーばかり見ていて、シリコンバレーに行く人も多いけれども英国のことを気にしている人は少ないのが実状です。だから、まずはお互いプレゼンスを上げないと交流しようという意識にも繋がらない」との話をしました。

このように、会場からの質問も受けながら、予定された45分はあっと言う間に過ぎていきました。

嬉しかったことは、パネルディスカッションが終わった後には日英で活躍されている10人以上の方から名刺交換を求められ、私の拙い英語でも伝わることがあったのだろうと感じたことでした。逆に残念だったことは、私以外の日本からのパネラーの方は、あらかじめ与えられていたテーマに関してはしっかりお話しされていたのに、会場からの質問には一切応えられなかったことです。せっかくの「ディスカッション」なので、用意した意見を披瀝するだけでなくインタラクションが重要だと思います。

実は今、英国に来ています。半年ぶりにこの地を訪れ、This Placeメンバーの熱気、街の活気、学生の元気に触れています。改めてパネルを振り返り、強調したいことが2つあります。それは、(1)国を跨がった協業は決して大企業だけのものではないこと、(2)これからの英国は要注目であることです。

これからさらにクラウド化が進み、非中央集権化が進み、「個」の時代になっていくあたって、小さな専門性の高いチームこそが様々な枠を超えて繋がる価値を生み出していくでしょう。そして、大企業を超えたスピードと価値を生み出していくことができると確信しています。

また、EU離脱をし独自路線を進むことができるようになる英国はより力を付けていくでしょう。既に、2017年上半期では、輸出金額は前年同期比で10%も増加、観光客(インバウンド)も前年に比べて6%増加、ロンドン金融街の雇用は13%も増加というレポートが出ています。英国全体の失業率は統計を始めて以来過去最低となっています。メディアの報道だけで、英国の行く先を心配する前に、自分の足で英国を見て感じてください。英国には、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学をはじめ世界有数の教育レベルを誇り世界中から若者が集まっています。英国には、新たなイノベーションを生み出す若い力と活力が溢れていると感じるのです。

Happy 19th Anniversary に感謝

この9月1日にインフォテリアは、19回目の創立記念日を迎えました(写真)。

今年もまた創業記念日を迎えることができたのは、ユーザーの皆様、取引先の皆様、そしてなによりも社員のメンバーと家族の皆様のおかげです。

深く深く感謝申し上げます。

インフォテリアの創業は1998年9月1日。前年には、山一証券、拓銀が経営破綻し、国内はバブル崩壊後の金融危機の影響で厳しい不況風が吹いていたときです。

当時私は35歳になったばかり。「こんな不景気の時に起業はいかがなものか?」などと時期を考えた方が良いとのアドバイスを何人もの先輩にいただきました。しかし、どん底のときこそ上がっていくしか無いわけですから、そこは問題視しませんでした。

それよりも、これからインターネットを介して人も企業も繋がっていく時代の入り口にいる興奮の方が何倍も私を行動に駆り立てたのです。

しかし、日本の経済環境が厳しいことは現実で、創業してしばらくは「1年後には会社が無いかもしれないが、一緒にやらないか」と社員を勧誘していました。

大きな夢はあったけれども、何も保証することはできなかったのです。

でも、だからこそ私は「融資」ではなく全額「投資」による資金調達を行いました。米国で多くの同僚が独立して投資のみの資金調達によって億円単位の調達を実現して新たなソフトウェア企業を始めていました。それは、銀行と組むのではなく、投資家と組むというモデルです。その調達額は銀行の融資に比べると桁違いに大きく、日本でも米国型の投資モデルを持ち込まないと日本のソフトウェア産業は消えて無くなるという危惧を抱いたのです。「非常識」だの「問題外」だの言われながら、結果的に全額を投資によって27億円の資金調達を行うことができ、いまのインフォテリアの基礎を作ることができました。(詳しくは、月刊「事業構想」10月号に)

日本にはまだ浸透していなかった「先行バリュエーション」で「100%投資のみ」というモデルに投資をしていただいた当初の投資家の皆様の「知見」と「先見性」に支えられました。

1年後は存在しないかもしれない設立間もないベンチャーのソフトウェアをその機能と性能に惚れて買っていただいた当初のお客様の「決断」と「覚悟」に支えられました。

そして、安定した会社でのポジションと収入を捨ててジョインしてくれた当初の社員メンバーの「勇気」と「情熱」に支えられました。

それ以降、数多くのユーザー、取引先、そして社員のメンバーなど全ての人々のおかげで、19周年を迎えることができました。本当にありがとうございます。

来年は、いよいよ20周年。

ここまで継続し、成長して来ることができたことに感慨深いものががあります。しかし、世界に羽ばたいた企業の20周年に比べればまだまだ小粒です。まだまだやりたいことは、沢山あります。

創業の時から目指している、ソフトウェアで世界規模で貢献をできる会社への大きな成長を目指して、来る20周年に向けて挑戦を続けます。

<インフォテリアの19年(抜粋)>

  • 1998:大田区の6畳1間のアパートで創業(9月)
  • 1999:世界初の商用XMLエンジン「iPEX」を出荷(1月)
  • 2000:総額27億円の調達を創業時調達を完了(〜3月)
  • 2001:「Asteria for RosettaNet」を発売(1月)
  • 2002:ノン・プログラミングの「ASTERIA R2」を出荷(6月)
  • 2003:「ASTERIA 3」を発売(10月)
  • 2004:「ASTERIA」の導入社数が100社を突破(6月)
  • 2005:「ASTERIA」の解説本が登場(5月)
  • 2006:「ASTERIA」が市場シェアNo.1を獲得
  • 2007:東証マザーズへ株式上場(6月)
  • 2008:中国浙江大学とソフトウェア開発コンテストを実施(12月)
  • 2009:「Handbook」を発売(3月)
  • 2010:「ASTERIA」の導入社数が1,000社を突破(2月)
  • 2011:米Extentechを買収(6月)
  • 2012:中国杭州と上海とに子会社を設置(3月、11月)
  • 2013:香港に開発子会社を設立(11月)
  • 2014:シンガポール子会社設立(11月)
  • 2015:「ASTERIA」導入5,000社突破「インフォテリアの森」CSR開始(9月)
  • 2016:IoTモバイル開発基盤「Platio」を発表(10月)
  • 2017:英ThisPlaceを買収(4月)

 

なぜ、「パンゲア 2.0」を始めるのか?

 

昨日(1月12日)、インフォテリアは「パンゲア 2.0」というスタートアップ支援プログラムのスタートを発表しました。このプログラムは報道発表にもあるように、世界を目指すスタートアップを支援する制度です。その内容は、報道発表を読んでいただくとして、ここでは何故このようなプログラムを始めるのかをお話ししましょう。

その理由は一言で言うと「恩送り」。話は、インフォテリアの創業時、いまから18年ほど前に遡ります。インフォテリアは、多摩川の河川敷の近くの六畳一間のアパートで創業しました。その時に問題になったのが、お客様との商談や、採用面談の場所でした。スタートしてすぐの資金のない会社にとって、交通の便の良い山手線沿線の会議室を借りるお金は無いし、喫茶店のような場所は企業向け製品の商談にはカジュアル過ぎました。

その時に、五反田駅のすぐ近くにあった私の前職の会社に、会議室とワークスペース(机、椅子、ネットアクセスなど)を1年間無償で提供していただいたのです。これには、本当に助かりました。お客様や、採用面談のためだけでなく、メディアからの取材や、投資家との打ち合わせなどにも使わせてもらいました。さらには、セミナールームでの製品説明会や記者会見も行うことができました。これら全てを貸会議室で行っていたら、そのコストは100万円を超えていたのは間違いありません。

インフォテリアは、いまではお陰様で上場も果たし、またオフィスは大井町駅という大変便利の良い駅(知ってましたか?)から徒歩3分のところに立地しています。昨年10月に、オフィスを大幅に増床し「IoT Future Lab.」(略称:イフラボ)を開設したことで、会議室、セミナールーム、コワーキングペースも広がりました。そこで、このスペースをスタートアップの皆さんにも無償提供し、インフォテリアが以前受けた「恩」を送りたいと考えたのです。

登録の条件は、「世界を目指すスタートアップ企業」であること。私たちとしては、特に、インフォテリアが注力をしている分野、例えば、IoTやブロックチェーン関係の企業を歓迎します。また、東京に拠点がない地方の企業も歓迎します。

実は「2.0」の名称が示す通り、このプログラムは、以前から提供しているプログラムのバージョンアップ版です。以前は、提供できるスペースも決して広くはなかったのですが、今回が総面積で530㎡のスペースが対象と大幅にアップグレード。さらには、私や社外取締役であるAnis Uzzamanへの経営相談、交流を促進する月に1回のワインパーティなどの新プログラムも用意しました。

大幅にバージョンアップされた「パンゲア 2.0」では、全体のディレクションを行うディレクターとして株式会社54代表取締役の山口豪志氏を招聘し、いまどきのスタートアップのニーズに合った展開をしていきます。新規登録の第1号企業として、株式会社Tears Switchを紹介しましたが、総数20社程度を支援することができればと考えています。また、インフォテリアとしては「恩送り」が主旨ではありますが、このような熱気溢れるスタートアップの人達と接点が増えることで、私たちの「発想と挑戦」への刺激がもらいたいと副次的な効果も期待しています。

最後に「パンゲア」の名前は、現在の5つの大陸に別れる前の原始大陸の名称です。私たちは、「パンゲア」から、五大陸で活躍するスタートアップが生まれることを期待しています。

雄たけびあげて輝こう!新生MIJSへ

今日、3月31日をもって、2014年4月から2年間勤めたMIJS (Made In Japan Software & Services)コンソーシアムの理事長の任期終了となります。

「日本発のソフトウェアを世界へ!」という目標を掲げて、2006年から活動を続けているMIJSは、いよいよ設立から10年の節目を迎えました。この節目に、歴代最年少となる新理事長を迎え、MIJSは大きく生まれ変わろうとしています。

理事長を引き継ぐのは、株式会社WEIC代表取締役社長の内山雄輝さん。新進気鋭の内山さんのリーダーシップのもと、新たなビジョン「日本を変革するテックイノベーションを実現する」ことを目指す団体に生まれ変わります。

日本において技術的イノベーションが起きにくい理由はいくつも挙げられていますが、MIJSの理事会では以下のようなことを議論しました。

  • 高リスクのスタートアップに資金提供する金融システムがほとんど存在しないこと
  • 多様で質が高く、流動性の高い人材を供給する労働市場がないこと
  • 革新的なアイディアや製品、ビジネスを絶え間なく創出する産学官の共同体制が弱いこと
  • 既存の大企業と小規模スタートアップがともに成長する産業構造が確立されていないこと

このようなことは、1社だけで解決できることは少なく、同じ志を持ち、価値ある活動の実績と高い機動性を持つMIJSという団体だからこそできることが多々あります。その試みの一つとして、スタートアップ企業も含めた「MIJS Japan Tech Valley」も開始する予定です。そして、これまで4つの委員会で構成してきた委員会活動内容もリニューアルして、日本のソフトウェア業界でイノベーションを起こすことを目指します。

と、現理事長として紹介してみるものの、やはり新しいことは、新しい理事長に語ってもらうのが一番です。そのために、新しいビジョンと新しい活動を新理事長が自ら説明する「MIJS Japan Tech Valley Summit」を、来る4月4日に開催しますので、興味のある方は、ぜひご参加ください。

詳細・参加申込はこちら
https://www.mijs.jp/archives/4467

日本のエンジニアスタートアップの環境は酷いのか?

元ソフトウェアエンジニアとして、また資金調達をしてスタートアップした一人として、大変気になるブログ投稿がありました。

【とあるスタートアップを抜け、CTOを辞めた話。

内容はまさにタイトルの通りなのですが、私が気になったのはそのなかの「日本のエンジニアスタートアップの環境の酷さ」という節。その中に、こういう記述があります。

「日本の、VCや投資家が技術が全く分かってないのだ」
「投資する側が、技術理解せずに、その先にあるマーケット、ビジネス、社会システムを想像できず、そして、それにリスクを負うことができない」

筆者の気持ちが分からなくはないですが、「全く」や「できない」ということはありません。インフォテリアも「XML」という当時は極めてニッチな技術でしかも、その専業でスタートしたにもかかわらず、理解をしていただいた投資家はいました。その後、15年以上の間、国内外のVCや投資家と付き合ってきましたが、国内で技術が分かっている人は少数ですが全くいないわけではありません。一方でシリコンバレーなどは技術がわかっている人は確かに多くいます。

では、なぜ「少ない」のか?これはエンジニア側にも問題があります。それは、

  1. 日本では、エンジニアスタートアップの数が極めて少なく、技術がわかるVCや投資家のニーズが少ない。
  2. 筆者が挙げているシリコンバレーにおいては、技術がわかる投資家の多くはエンジニアの経験がある。

つまり、国内ではエンジニアがエンジニアの枠内に留まったままずっと雇われエンジニアであるために、外に出てスタートアップするケースが少ない事、エンジニアの枠から外に出て経験を活かした別の仕事につく人が少ない事、に筆者が嘆く事象は起因しているのです。

「環境」について補足しておきましょう。国内の資金調達の環境ということから言えば、インフォテリアが創業した1998年よりも圧倒的にスタートアップ投資への理解も実行も進んでいます。一方で、ブログではシリコンバレーのY-Combinatorの存在が挙げられていますが、彼らが、何ミリオンUSドルというような大きな投資をするのではなく、ある意味VCへのフィルタリングのような存在です。また、Y-Combinatorを卒業してもVCのオファーを受けられない企業もたくさんあります。

インフォテリアもY-Combinator企業に複数投資していますし、社外取締役には、シリコンバレーのVCの現役CEO(Anis Uzzaman:彼も元エンジニア)がいるので、目の前の話として知っています。とかく、シリコンバレーは憧れ先行になりがちですが、日本に届いている記事や噂だけで判断しないよう注意が必要です。

いずれにしても、エンジニアがエンジニア外の事を嘆いているだけでは何も変わらず、エンジニアこそこういう状況を変えられるのです。

「日本のエンジニアよ、もっともっと外に出よう!」

これが私の言いたいことです。「外」は、いまの会社の「外」、エンジニア「外」の仕事、もちろん国の「外」だってかまいません。とにかく、エンジニアスタートアップは少な過ぎるし、エンジニアを活かして他の仕事をやろうという人も少な過ぎる。「マネジメントは格好悪い」だとか「お金のことを考えるのは格好悪い」だとか、エンジニア原理主義のようなものを聞く事があります。しかし、仕事である以上、役に立ってナンボ。お金は価値創出のバロメーターです。私は、元ソフトウェアエンジニアだったことを今でも大変誇りに思っていますし、だからこそ出来た事がいくつもあります。

ソフトウェア業界にいると、そして元エンジニアという立場にいると、エンジニアの嘆きを聴くことが本当に多いのですが、腕に自信があるなら、自信があるからこそ、外に出てみましょう!そこに新しい人生を創ることも、社会の変化への貢献もできるはずです。

政府を動かしたパブリックコメント

パブリックコメントが政府を動かしました。

先日このブログでも紹介した「適格機関投資家等特例業務の見直しに係る政令・内閣府令案」に対して私も異議ありのパブリックコメントをした件ですが、この政令・内閣府令は結果的に閣議決定寸前まで行って、取り下げとなりました(問題の詳細は以前のエントリを参照)。私がパブリックコメントをブログでも紹介した後には、「どうせ、パブリックコメントしても形式的なものだから変わりっこない」という主旨の意見も複数いただきました。しかし結果は変わったのです。関係者によると閣議決定寸前で政令・内閣府令が取り下げとなるのは異例とのことですが、今回はパブリックコメントとそれに端を発する活動で、政府の施策を動かすことができたのです。

パブリックコメントが噴出したため、施行予定日の8月1日を過ぎたあとも、この内閣府令の内容は調整が続いていました。私も、先月のStartup Asia Tokyoのパネルディスカッション(写真)で経済産業省の石井芳明氏に噛み付いたりしましたが、結果として今回の臨時国会の前に、この内閣府令案は取り下げとなり、元々の問題である未公開企業への出資にからむ詐欺に関しては別途引き続き対策を検討していくこととなったそうです。

このように、まだ完全決着ではないので、油断はできませんが、独立系ベンチャーキャピタルの存在が危うくなるような事態を回避できた意味は小さくありません。今回は、パブリックコメントに端を発して、NTVPの村口和孝氏、フェムトの磯崎氏、インキュベイトファンドの赤浦徹氏、サムライインキュベートの榊原健太郎氏、モビーダジャパンの孫泰蔵氏など、多くのベンチャーキャピタリストの方々、そしてベンチャー企業やベンチャーキャピタルに詳しい政治家の方々もこの内閣府案の阻止に向けて活動をしていただいたおかげであり、皆様の活動に敬意を表します。

いまの日本では「どうせ病」が蔓延しています。

「どうせ、政府に言っても変わらない」
「どうせ、選挙に行っても変わらない」
「どうせ、私がやっても変わらない」。

そうでしょうか?

今回の件では、明らかに活動が結果を変えました。社会は、常に変化しています。そして、それは自然に変わっているのでもなく、神様が変えているのでもなく、誰かが変えているのです。私もあなたも、その一人になってはいけないとは誰も決めていません。

私は、一人一人が「どうせ」を削除していくことで、社会を変えていく事ができると確信しています。ぜひ、あなたも。

 

海外展開にあたり浴衣を学ぶ

最近、海外事業を推進するために海外出張が増えています。

私は、2014年前半だけで既に6回。出張先で、現地の企業のエグゼクティブと話をすることも多いのですが、話をしていて、時に恥ずかしいのが、日本のことを質問されて答えられないことがあることです。先日も、某国でIT企業のエグゼクティブと一緒にディナーをしているときに、着物に興味があるとの話になりました。そして聴かれたのが、

「なぜ着物は、男性と女性で羽織る方向が一緒なのか?」

という質問。よく知っているね!と驚き、しかし、その答えを知らない私は「今度調べてみよう!」と応えるしかなく、内心恥ずかしい思いをしました。その時に、「左前は貴族だけに許されていた」だとか、「死者には貴賎無く平等との考えから死者は誰でも左前」だとかということを知っていれば、さらに色々な話が広がったに違いないのですが、「今度調べてみよう!」で、着物の話はそこで終わってしまいました(笑)。

そんな悔しい思いをして帰国したところ、スタートアップ支援で活動されている本荘修二さんから「粋にまとう男ゆかたの会〜経営者レッスン」の誘いをいただいたのです。これから、海外での滞在がさらに増えるのに、浴衣くらいきちんと着る事ができなくては恥ずかしいなと思い、参加することにしました。

浴衣レッスンの先生はテレビやラジオなどでも活躍されている「Kazumi流」主宰の津田恵子さん。私のような初心者にはもったいない師匠です。日本では温泉などにいくと浴衣が置いてあって、何も考えずに羽織って帯を巻いていますが、レッスンに参加してみると、浴衣も奥深いことがわかります。着方次第でかなり印象がずいぶん変わるし、素材や、着方や、模様や、小物なども含め様々な背景、謂れがあることがわかりました。浴衣は日本文化からすれば、ほんの一部でしかありませんが、日本の歴史、風習などかなり広範囲に関連していて、海外の人と小一時間盛り上がれるような話題も提供できるのです。

この4月からは、インフォテリアの代表だけでなく、MIJS(Made In Japan Software)コンソーシアムの理事長職も担っています。海外に日本を紹介し、展開していく一人として、日本のソフトウェアだけでなく日本の文化についても、もっと知見を深めていきたいと改めて感じた浴衣のレッスンでした。

VCファンドへの個人投資規制にパブリックコメント

あなたは、パブリックコメントをしたことありますか?

現在、政府では、様々な政策や法令改正にあたり、「パブリックコメント」という一般からの意見を聴く仕組みを導入しています。これは1994年に施行された行政手続法によって制度化されたもので、現在日本では特定の法令以外については必ずこの手続きを踏むことになっています。

私は、先日金融庁からパブリックコメントに付された、「適格機関投資家等特例業務の見直しに係る政令・内閣府令案」に対して異議があり、本日パブリックコメントとして意見を提出しました。この案は、悪意のあるベンチャーキャピタル(VC)ファンドによる不適切な出資勧誘による被害を防止するための法令の改正案であって、目的には賛同します。しかし、その中身が問題なのです。

改正案では、VCファンドに出資できる個人は、以下のいずれかに該当する人に限定されます。

(1) ファンドの運用者、ファンドの運用者の役員および使用人
(2) 投資性金融資産を1億円以上保有かつ証券口座開設後1年経過した個人

これでは、かつてインフォテリアのエンジェルになっていただいた方々や、インフォテリアのリードVCであった日本テクノロジーベンチャーパートナーズの出資者には多くのVCファンドへの出資不適格者が出てしまいます。

もちろん、インフォテリアは、これからVCから出資を受けることはないので、直接の影響はありません。しかし、この改正は日本の新規起業(スタートアップ)およびその資金調達を阻害しかねないと大いに懸念するのです。現在、日本では、スタートアップが増加傾向にありますが、創業期ベンチャーの投資は独立系VCがリードしているのが現状で、その独立系VCは特定の大きな財源を持たないので個人投資家からの出資も少なくありません。

このような中で、多くの個人投資家を閉め出してしまうことは、政府が成長戦略「第3の矢」で示している新規開業・起業の促進に反する結果となってしまいかねないわけです。このようなことから、私はパブリックコメントとして、改正案に対する問題点と提案を記載して提出しました。(詳細な内容はドキュメントイメージをクリック)

さて、このような話をすると、「パブリックコメントなんて形式だけで何か言っても意味が無い」と言われることがあります。

しかし、私は4年前に、未公開ベンチャー企業への個人の投資を大幅に規制する案が出たときにもパブリックコメントをしましたが、結果としてパブリックコメントに付された案からいくつもの点が変更されました。もちろん、私の意見は多くの意見が出された中のたった一つではありますが、意見をすることで変える事ができたのです。

「直接言っても変わらない」と聞こえないところで批判したり、評論したりするのではなく、直接意見を言い、行動しましょう。そうしなければ変わりません。これは、パブリックコメントだけではなく、仕事においても、プライベートにおいてもあてはまるのではないでしょうか。