XBRL - 企業財務情報の世界標準を知る
インターネットの普及や電子政府の進展に伴い、企業情報を再利用可能な電子データとして流通させる必要性が高まってきている。その企業情報の中でも最も重要な情報が財務関係の情報であり、その標準仕様として「XBRL」(eXtensible Business Reporting Language)が注目され世界的に普及が進んでいる。今回は、このXBRLとはどのようなものか概要を解説しよう。
企業情報のなかで財務諸表は最も重要な情報である。貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書といった財務諸表に記されている財務情報は、企業活動の実態を表すからである。これらの情報は決算による投資家への情報開示だけに限らず、納税や取引先の信用リスク分析、グループ会社の業績評価など、企業経営のあらゆる局面で利用される。
このような財務情報を記述するための国際的な標準仕様が「XBRL(eXtensible Business Reporting Language)」である。各企業の財務情報の利用者である投資家や金融機関、監督官庁などの間で、財務情報をインターネットを通じて流通させ、処理のスピードアップや情報の再利用を促進するためのものだ。今回はこのXBRLを取り上げ、仕様策定の狙いや特徴、国内での導入事例などを紹介する。
XBRLの背景と目的
XBRLの目的は、企業の財務データを、各企業およびその使用しているソフトウェアやベンダーに依存せず、標準的に財務報告書を作成、開示、交換、加工ができるようにすることである。XBRLは、もともとは米国公認会計士協会(AICPA)が開発したものである。1998年に米国公認会計士協会に所属するチャールズ・ホフマン氏が、従来方法による財務情報の電子化の不便な点を解消するために発案したことがきっかけだ。氏の発案を基に1999年7月には、XFRL(eXtensible Financial Reporting Language)として米国公認会計士協会での公式プロジェクトとして発表され、2000年4月には現在のXBRLという名称になった。このような動き受け、日本では2001年4月に日本公認会計士協会を中心としてXBRL Japanが発足し、日本の制度や市場において必要な仕様の開発や普及啓蒙に乗り出した。
このようにしてスタートしたXBRLが国際的に普及してきた背景には、インターネットの普及や企業のIT化をベースにした業務のスピードアップがある。従来は、期単位や月単位で処理していたものを週単位、日単位で処理するように求められている。また、業務のスピードアップにともない、各企業の決算発表の迅速化、財務諸表をベースとした各種監査や審査の迅速化も求められている。このような処理のために従来は各企業が独自の会計システムを使い、最終的には紙に印刷したり、PDFを生成したりして処理を行ってきた。しかし紙やPDFでは、人が見る分には良いが、その情報をデータ化し加工や分析を行いたい場合には、再度手入力を行うなどの多大な手間がかかっていたのである。
XBRLを使うことで、企業の財務情報である、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書、有価証券報告書、決算短信などを容易に流通させ処理を効率化することが可能となる。そして、XBRLが標準化されていることで、これを使用する金融機関、監督機関、投資家など、様々な当事者間で財務情報を扱うことができるのだ。
XMLが採用された理由
XBRLにXMLが採用された理由は、第1に、OS、ソフトウェア、言語、ベンダーに非依存であることだ。冒頭でも述べたように、財務情報は企業活動のあらゆる場面で利用される情報であり、様々な企業や機関が関わってくる。個別の技術や製品に依存しないデータ形式として、XML以外の選択肢は事実上なかったと言える。第2に、データの二次加工が容易であることである。標準的に電子化するだけなら、HTMLやPDFといった選択肢もありうるが、二次加工の容易さを考えるとHTMLやPDFでは不十分である。第3に、XMLの周辺技術が豊富であり柔軟性に富む企業財務データを柔軟に記述するのに適しているということが挙げられる。つまり、企業財務データは、各国の会計基準その用途または業界などによって様式が異なるが、その差異をXML SchemaやXLinkといった標準化された技術によってカバーすることができる。さらに、XMLは、対応製品や、技術ノウハウが市場に豊富にあることが普及を促している。
XBRLのメリット
図で示すとおり、全ての企業に関わる財務情報だけにXBRLの用途は幅広い(具体的事例については後述)。まずXBRLを外部へ提供する用途としては税務申告、証券取引所や投資家への情報開示、金融機関への融資申請がある。また企業の内部的な用途としては、子会社の自動連結処理、会計士、監査法人などとの間でのデータ処理の自動化などが挙げられる。さらに、財務情報を二次利用した企業信用情報サービスなどにも活用される。
この図でわかるように、XBRLが普及すれば、企業情報のサプライチェーンといえるものが出来上がる。このことによって第一義的には、銀行や税務署、証券取引所といった、企業の財務情報を収集・分析する立場にある企業や団体が恩恵を受ける。例えば監査法人は、顧客企業からXBRL形式の財務情報をインターネット経由で入手すれば、監査のためのデータ集計・分析業務の手間を大幅に軽減できる。現在はほとんどの場合、紙で財務諸表を受け取り、それを手作業で集計したりコンピュータに入力するなどの手間がかかっている。
一般企業にとっても、XBRLの利点は大きい。まずは証券取引所や投資家への情報開示、法人税の申告、銀行への融資申請などといった事務処理が簡素化されることである。また、処理の迅速化によって早期に的確な情報開示が可能となり企業信用の向上にも役立てることが可能である。さらに、グループ企業の財務情報をXBRL形式で送受信することができれば、連結決算処理の事務作業のスピードアップに貢献できるだろう。昨今では合併や買収に伴い、関連会社であっても異なった会計システムを使用しているケースも多い。統合する企業の会計システムがXBRL形式でデータを管理していれば、会計システム統合の手間を軽減できる。
さらに、企業信用情報も現在は紙やPDFで提供されるケースがほとんどだが、XBRLでデータが提供されることで、手元での統計、比較、分析が容易になり判断の迅速化を助けることになる。
XBRLの構造について
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現在、XBRLの各国組織が、国ごとの会計基準や用途に応じた「タクソノミー文書」を開発している。基本となる仕様としては2001年12月に、最新版「XBRL 2.0 Specification」が公開されており、近日中にXBRL 2.1 Specificationが公開される見込みである。XBRL Internationalでは、実装を促進するためにXBRL 2.1 Specificationをできるだけ長い期間固定化し、改定をしないとしている。
なお、現在、議論されているXBRLのタクソノミーには大きく分類して2種類がある。決算や税務申告など、企業が財務情報を開示するための仕様「XBRL FR(Financial Reporting)」と、企業内部の会計情報(総勘定元帳)を扱うための仕様「XBRL GL(General Ledger)」である。XBRLは元々、企業が対外機関に開示する財務情報を記述する仕様であった。つまり前者のXBRL FRが、当初の用途だった。これに加えて、連結決算処理も含めた組織内財務をカバーするべく、2002年3月にXBRL GLが策定された。
国内ではXBRL Japanが、有価証券報告書用と商法決算公告用のタクソノミー文書を開発・公開している。これらに加えて、融資審査用と信用調査用のタクソノミー文書を開発中である。これらはいずれも、XBRL FRに分類されるタクソノミー文書である。
「タクソノミー文書」はさらに、XML Schemaを使ってインスタンス文書の語彙(要素名、属性など)を定義した「タクソノミースキーマ」とXLinkで定義される「リンクベース」がある。「リンクベース」には、勘定科目の階層構造を示す「定義リンクベース」、勘定科目の表示順序を示す「表示リンクベース」、勘定科目の計算方法を示す「計算リンクベース」、勘定科目の表示名称を示す「名称リンクベース」、勘定科目の参考文献を示す「参照リンクベース」がある。
ところで、XLinkは他のXML標準ではあまり使われていない技術である。XLinkでは、XML文書相互の関係(リンク)を元文書に依存せずに記述することのできる。HTMLの場合は<A href= >タグがリソースのリンクを示すが、HTMLの<A href= >タグは、元文書に必ずそのリンク情報を記述しなければならない。これに比してXLinkでは、元文書になんら依存せずに元文書と他の情報をリンクさせることが可能だ。この機能を活用して、データのスキーマ定義のほかに、階層構造、表示順序、計算方法、表示名称、参考文献などをリンクとして独立に持つことで、タクソノミーの利用と開発をより柔軟にすることを可能とした。
XBRLのメリットと導入状況
企業財務情報は世の中の全ての企業が関わりを持つものであり、XBRL普及のメリットは計り知れない。「XBRLの利用ケース」でみたXBRLの典型的な利用パターンのいくつかの業務は既に実用化されつつある。
1)企業情報開示:東京証券取引所
東京証券取引所は、2003年4月から同取引所の運営するTDnet(適時開示情報伝達システム)にXBRLを採用し、東証の上場企業には決算短信の1枚目(決算概要情報)がXBRLでの提出が義務付けた。従来TDnetでは、PDFおよびCSVの提出を受け付けていた。しかし、PDFではデータの加工、二次利用はできず、またCSVの提出はPDFと情報の整合性が取れなかったりなど、実用性に乏しかった。XBRLによって提出されたデータは自動的に加工され、翌朝には東証のWebサイトで閲覧可能となっている。このシステムは、XBRL 2.0を採用した世界で最初の実稼動システムである。
2) 納税申告:国税庁
多くの企業では、納税申告は会計ソフトから出たデータを基に税理士が作成した紙のデータ(これ自体は専用ソフトで印刷される)を、税務署に提出している。また、税務署では提出された資料を職員が一件一件手作業で処理を行っているのが実情であった。
国税庁では、2003年7月の電子政府の促進を目指すIT戦略本部の決定を受け、2004年3月から名古屋地区でXBRLによる法人税申告を始めた。このシステムは「e-Tax」と呼ばれ、企業が社内のパソコンから申告や申請を送信できるようになっただけでなく、銀行や税務署の窓口に納付書を持参しなければならなかった納付手続きも、パソコンを利用して行えるようになった。このことによって、企業側の処理効率が向上するだけでなく、これまで手作業で行っていた国税側のデータ入力も自動化される。
国税庁の発表によると2003年5月末現在の利用件数は、既に300件近くとなっている。そして、この6月からは全国で「e-Tax」による法人税申告が可能となっている。国税局では、さらに手続き開始の煩雑さや、一部書類について電子化されていない部分があることを解消していき、2006年度には「e-Tax」での申告件数として130万件を目標としている。
3)企業信用情報サービス:東京商工リサーチ
株式会社東京商工リサーチは2003年10月より、「X-BIS」という企業情報サービスを開始している。このサービスでは、XBRLをベースに「企業属性情報 : Entity Information (EI) 」、「企業財務情報 : Financial Information (FI)」、「企業分析情報 : Financial Ratio (FR) 」の3種類情報が提供される。従来は、同社の顧客企業はこのような情報をPDFやFAXで得ていたため、企業分析や比較などの場合にはそのデータを再入力する必要があったが、XBRL形式で提供されることにより、加工、分析を容易に行うことができる。
XBRL Japanにおける実証実験
上記以外の用途として、XBRL Japanでは、銀行の融資申請・審査におけるXBRL仕様の実証実験を行っている。この実験の狙いは、企業の融資申請をXBRLを使いオンライン化するにあたっての問題を把握し解決を図ることである。この実証実験では、最終的には財務情報提供企業の会計システムから融資金融機関の審査システムに人手を介さずにデータを届けることを目指している。XBRL Japanでは、2004年4月に第1回の実証実験を完了し、様々な課題を確認した。第1回の実証実験では、情報提供会社から金融機関がXBRLデータをオフラインでもらい、そのデータを各社のシステムやツールに読み込む実験を行った。
この実証実験には、データ提供会社として帝国データバンク、東京商工リサーチ、日本経済新聞の3社、ソリューション提供会社として、インフォテリア、NTTデータ、日本オラクル、日立システム、日立製作所、日立ハイテクノロジーズ、富士通の8社、銀行側としての東京三菱銀行、三井住友銀行、UFJ銀行の3行、監査法人およびコンサルティング企業として、シナンシャルシステム、新日本監査法人、中央青山監査法人、べリングポイントの4社が参加した。現在、第2回目の実証実験を進めているところであり、オンラインでのデータの受け渡しと実際のアプリケーションへのデータの活用に関する実験を行う計画である。(文中社名50音順)
XBRL実装に必要な機能とソフトウェアベンダーの対応
一言に「XBRLの実装」といっても、用途によって必要な機能は異なる。表ではXBRLの実装にあたっての機能を整理した。XBRLのための機能は9つに整理される。またこれらの機能は、XBRLデータの提供側と受領側で必要となるものが異なる。さらに、その中での用途によって必要な機能を実装するわけだ。これまでの、XBRLの実装事例では、ほとんどの機能を作りこみで実現しているが、最近ではこれらの機能をパッケージ化して提供する製品も出始めており、インフォテリアの「ASTERIA」もその一例である。
XBRLの仕様の充実と普及に伴い、インフォテリア以外の各ITベンダーも着々とXBRL対応を進めている。財務データを直接扱うパッケージベンダー、例えば、SAPの「SAP R/3」、NTTデータシステムズの「SCAW」、PCAの「PCA会計」などは、XBRLデータを生成できるよう機能拡張を施している。日立、富士通、日本ユニシスといった大手システムインテグレータも、XBRLのツール製品やXBRLを軸としたシステム構築サービスを発表済みである。
「ASTERIA」では、XBRL Encoder、 XBRL Decoder、 XBRL Splitterの3つのコンポーネントを備えることで、従来から「ASTERIA」が扱うことのできる多彩なデータソースをXBRL化したり、また、XBRLで得たデータを社内用に加工したり、データベースに格納したりすることができる。そして、これらの処理を「ASTERIA」の特長である「ノン・コーディング」で行うことができるのだ。(図)
このように、XBRLは仕様だけでなく、実装環境も整いつつある。究極的には、XBRLはすべての企業に関係のある仕様であるため、自社でどのようにXBRLの対応を進めていくかを今から考えておく必要があるだろう。
日時: 2004年09月01日 13:00 | | TrackBack


