XMLを用いた企業間連携システム
(1999/3/12 情報処理学会デジタルドキュメント研究会発表を一部改定)インフォテリア株式会社 平野洋一郎
XML (eXtensible Markup Language) の応用として最も注目されている分野の1つが、企業間データ交換(EDI: Electronic Data Interchange)への適用である。従来、EDIは大企業を中心に専用VAN上で展開されてきたが、インターネットの爆発的な普及に伴い、インターネットベースの安価で先進的なEDI(=インターネットEDI)導入の機運が高まっている。XMLは、このインターネットEDI上で扱うデータ形式として注目され、研究や技術開発が進んでいる。また一方では、XML採用にあたっての課題も明らかになりつつある。本稿では、XMLのEDIへの応用の動向を探り、今後の方向性および課題について述べる。
1. インターネットとEDI
1.1 インターネットの普及とEDI
ワールドワイドウェブ(WWW)により世界的にインターネットが爆発的に普及した結果、いまやインターネットは日本においても、最大規模でかつ最もコストの安いデジタルネットワークインフラとなった。この巨大なネットワークをWWWやメールだけでなくあらゆる通信に応用しようとの試みが行われているが、その中でも多くの企業の活動に影響を及ぼすものがEDIをインターネットに載せた「インターネットEDI」である。
一方、今後社会がネットワーク化していくにあたっては、あらゆる取引のネットワーク化が求められる。つまり従来の特定の取引や相手に関してEDIを使うという形態から、EDIを様々な取引先と実施する「企業間データ交換のWeb化」が必然となる。そしてこれを実現できる仕組みがまさに、インターネットEDIなのである。
現在、インターネットEDIとしていくつかの事例が既に存在する。広義にインターネットEDIと言う場合には、単純にEDIの電文の伝送路をインターネットにするという意味である。広義のインターネットEDIは、上位層の実装形態により、下記のように3つの形式に分類される。
■インターネットEDI (狭義)
■Web EDI
■XML/EDI
1.2 インターネットEDI
狭義の「インターネットEDI」は、伝送路にインターネットを使用し、上位層のデータフォーマットとしては、従来のEDIで使用されていたフォーマットをそのまま使用するものである。この形式は、ANSI X12とUN/EDIFACTについては、IETFのRFCとして規定され、米国クライスラー社、米国フォード社、米国ゼネラルモーターズ社を中心とした米国自動車業界での導入事例も報告されている。しかし、この形式でのメリットは、通信回線とその付帯コストの削減にとどまり(これはこれで大きな費用だが)、中小企業までを含めた幅広い適用が行いやすいモデルとは言えない。つまり、新規にEDIを導入する企業ではなく、既にEDIを導入している企業がそのコスト削減のために導入するモデルとしては適していると言える。
1.3 Web EDI
「Web EDI」は、片方がウェブサーバーを持ち、相手側企業はウェブブラウザから、EDIシステムにアクセスするモデルである。相手側では、ウェブブラウザのみしか使用しないため、従来のEDIや上記の狭義のインターネットEDIに比して極めて導入が容易である。このため、昨年より国内でも具体的な導入事例が出始めた。
■Web EDI (Webブラウザを端末として使用)の例
●サントリー株式会社「Socius」
・98年6月から稼働
・ビール関連資材メーカー11社と調達関連のデータ交換●株式会社ダイエー「商談システム」
・98年4月から稼働
・主要51社の取引先との商談支援
また、富士通社「TRADEX-Net」、NEC社「インターネットEDIサービス」などWeb EDIとのゲートウェイを提供するサービスも各社から提供が開始されている。
これらのWeb EDIは、相手側の導入コストや教育コストが小さいこと、WebやECの新しい技術と統合が可能であることなどのメリットがある反面、相手側のシステムがWeb端末であるため、相手側企業の社内システムとの連動が困難であることが最大の課題である。
1.4 XML/EDI
そして、このようなWeb EDIのメリットを持ちかつさらに双方の企業でそのデータを社内システム上で活用できる仕組みが「XML/EDI」である。HTMLがブラウザ上での表現を意図した仕様、つまり人間が見て何らかの処理を行うことを前提としているのに対して、XML (eXtensible Markup Language)は、コンピュータ同士が通信して処理を行うなうことが可能なデータ記述形式である。
XMLは、次のような点により、インターネットを使用したEDIに理想的なデータ形式であると言える。
標準のインターネット技術である、HTTP, SMTP, FTPおよびそれに付随する技術(暗号化、制御ソフトウェアなど)を全て使用することができる。
このため、XMLは、今後のインターネットを使用したEDIのデータ伝送メディアの本命と目されている。海外においては、米国国防省の調達システムや、AMAZON.COMバックエンドなどが、XML化されていることは有名である。国内においては、現在XMLをEDIに応用した例はまだ多くない。一例としては、NTTデータが開発した企業間購買システムがある。
■XML/EDI (XMLをデータ伝送メディアとして使用)の例
●株式会社NTTデータ「企業間購買システム」
・相手先にもデータ保管・活用 (XML→MS Accessデータとして)
・1999年2月 展示会「Net & Com」で発表
・1999年前半でのソリューションパッケージ化を予定
2. XML/EDI標準化の現状
2.1 XML技術
XMLは、1998年2月にWorld Wide Web Consortium (W3C)によって標準化勧告された、仕様である。その後、XMLの応用アプリケーションとしてW3Cに提案された各種標準化仕様は30を超え、その分野はシンプルな制御データ構造からマルチメディアデータまで、あらゆるデジタルデータに及んでいる。
XMLの周辺仕様についても標準化が急速に進行している。XMLデータを扱うための標準インターフェイスであるDocument Object Model(DOM)が1998年10月に、XMLのタグ名の衝突を避け複数のデータ定義構造の混在を許すNamespaces in XMLが1999年1月に、XMLデータの意味付け関連づけを体系的に行うためのResource Definition Framework (RDF)が1999年2月に、それぞれW3Cから勧告されている。さらに、今年半ばまでに、XMLにスタイル付けやフィルタリングを行うeXtensible Stylesheet Language (XSL) や、XMLドキュメントの高度な関連づけを可能にするXPointer/XLinkなどの仕様が勧告になる予定であり、XML/EDIのベースとなるXML本体の技術の標準化は、1999年後半には出揃う予定となっている。
2.2 欧米のXML/EDI
欧米では、XML/EDIを推進する団体が存在し、仕様検討や開発を積極的に展開している。米国では、有志団体のXML/EDI Internet Group (http://www.xmledi.com/)が、XML/EDI技術を企画開発している。ここでは、XML/EDIの階層モデル、構成技術などをまとめ、XML/EDIの普及を推進している。欧州では、European XML/EDI Pilot Projectや、EEMA EDI/EC Work Groupが音頭をとってXML/EDIを推進している。
2.3 日本のXML/EDI
日本国内では、XML/EDIを専門に推進している団体は存在しないが、現在XML/EDIの標準化のよりどころとして、(財)日本情報処理開発協会/産業情報化推進センターの「CII標準ベースXML/EDI」がある。これは、日本国内でのEDIシンタックスとして、事実上の標準として使用されているCIIシンタックス3.0をXML化したものであり、現在ドラフト第3版(1999.2.15版)が公開されている。このドラフトは、一部バイナリデータを認めるなどXMLの規定を外れている部分があるため、さらなる修正を必要とする。また、使用されているタグ名が単純な数値の羅列であるため可読性に乏しい問題も指摘されている。しかし、今後の国内のXML/EDIにおける基本仕様の一つとして大いに期待したい。
3. 技術側面
3.1 伝送路
従来のEDIは、VANによる専用回線で運用されている。伝送路としての問題点は、通信コストと伝送速度にある。つまり、通信コストは、DDX-TPにおいて0.48円∼1円/256 byteとインターネットに比較すると遙かに高く、また伝送速度も2400bps∼9600bpsと大量のデータ通信には向かないものである。インターネットでは、常時接続128Kbpsで月額38,000円のOCN(NTT)を始め、安価で高速なサービスが提供され、今後もこの品質と性能は格段に向上していくと予測される。伝送に必要な機器についても、通常のインターネット接続用機器を使用するためVANに比して極めて安価にシステム構築が可能となる。
3.2 伝送プロトコル
XML/EDIにおける代表的な伝送プロトコルは、メッセージベースのSMTP (Simple Message Transfer Protocol) とリクエストベースのHTTP (Hyper Text Transfer Protocol) となる。いずれのプロトコルもインターネット上で幅広く使用されているものであり、実装ソフトウェアも数多が、使用するプロトコルによってアプリケーションでの考慮点が異なるので注意されたい。
インターネット上で、XMLデータを交換する際のメディアタイプとして、「text/xml」および 「application/xml」が1998年7月にXML Media TypesとしてIETFで規定された。これによって、アプリケーションはXMLデータをより明確に区別して処理を規定したり実施したりすることが可能になった。なお、text/xmlを実装する場合にには、textとしての規定とXMLデータ内のエンコーディング指定の整合性に注意すべき点がある。
3.3 セキュリティ
XML/EDIにおいては、XMLデータ内部を個別に暗号化するなどしてセキュリティをかける方法も考えられるが、XMLの特性を活かすためには、まず第1段階としてXMLデータを載せるプロトコルで提供されるセキュリティ技術を用いることが好ましい。つまり、SMTP/MIMEでの伝送においては、S/MIMEやPGP/MIMEによる暗号化や署名、HTTPでの伝送においては、SSL (Secure Socket Layer)やTLS (Transport Layer Security)などのセキュリティによる。これによって、データ作成者自身が暗号化などの開発もしくはコスト負担を行うことなく、標準の技術で確立されたセキュリティを確保することができる。個別のメッセージでなく伝送全体のセキュリティを確保する場合には、VPN (Virtual Private Network) などの技術を使うことで実現可能である。いずれの場合でも、インターネット上で一般的に使用される技術をそのまま適用可能であることが、XML/EDI化の大きなメリットである。
さらに、XMLにおいては、W3CとIETF共同でデータ内部のセキュリティに関しての仕様策定も進んでいる。これは、D-sig(注記:後にXML Signatureとなった)と呼ばれ、XMLデータの一部の改竄を防ぐことのできる技術である。例えば、見積書と発注書をXMLで書く場合に、受注側は見積書で提示した特定の部分を書きなおさずに返送して欲しい事がある。このような場合に、最初に送ったXMLデータの特定の部分の改竄を発見することができる技術である。
3.4 XML パーサー/エンジン
受信したXMLデータを解釈する仕組みとして、XMLパーサーまたはエンジンと呼ばれるモジュールが必要である。XMLパーサーは、XMLデータを解釈してアプリケーションに渡す機能を司る。XMLエンジンは、XMLパーサーの機能に加えて、そのモジュール自体にXMLデータの木構造を保持し、アプリケーションプログラムインターフェイス(API)によりアプリケーションからの命令を受けてXMLの処理までを行うものである。XML/EDIにおいては、パーサーは、XMLの受信を司るもの、エンジンは送受信双方を司るものとして捉えても良い。現在、企業製のパーサー/エンジンとしては、IBM社のXML Parser for Java (Java)、インフォテリア社のiPEX(Windows, Solaris, Linux他)、マイクロソフト社のMSXML (Windows)等がある。
3.5 データストレージ
XML/EDIで伝送されるデータは、送信側や受信側では保管され、または他のアプリケーションで再利用する必要がある。現在、XMLのデータストレージとしては、(1) XMLファイルを稼働環境のOS上のフラットファイルとして保持する方法、(2) 一般的なリレーショナルデータベース(RDB)を使用する方法と、(3) XMLに特化したオブジェクトオリエンテッドデータベース(XML-OODB)を使用する方法の3種類が考えられる。
このうち、フラットファイルで保持する方法は、大量のデータ管理やクエリーに耐えないため、XML/EDIには適切ではない。RDBに保管する方法は、XML全般を対象とする場合、あらゆる複雑なデータ構造を再現するには難ありとされることもある。しかし、EDIデータに限れば、構造化文書のように複雑に入り組んだ構造が発生することは現実にありえないので問題とはならない。また、RDBに保管することにより他の情報システムとの接続性が極めて高くなるため、現時点では最適の方法と言える。XML-OODBでは、どのような構造のXMLデータでも確実に保管、管理することが可能だが、OODBの特性から、処理パフォーマンスや、既存システムとの接続性がRDBに比べて劣るため、定型のデータ処理を主とするXML/EDI向きとは言えない。
3.6 エージェント
エージェントでは、データ交換処理の自動化や、ビジネスロジックの実行を行う。ユーザーは、比較的簡単なアクションの選択や指示によって、XML/EDIシステムを稼働させたり管理したりすることが可能になる。
XML/EDIのエージェントに関しては、現在確立したツールは存在しないが、米国のXML/EDI Internet Groupでは積極的な開発が行われている。また、将来的には大手ソフトウェアベンダーのXMLシステム製品はこれらの機能を実装して製品化されるであろう。
4.XML/EDIの課題
4.1 スキーマの標準化
現在、XMLのDTDでは文字型以外のデータ型の規定がない。一方で、EDIに置いてはデータ型(数値、日付など)は必須である。現在W3Cで議論が重ねられているが、XML/EDIではデータ型は必須であり、早期の標準化勧告が必要である。さらに、CIIシンタックスの標準化案などEDI用スキーマの標準化が待たれる。
4.2 データ量
可変長バイナリ形式のEDIデータをXML化すると、単純にそのバイト数は増える。十分な伝送速度の確保や、上位レイヤーでの圧縮など、XMLシンタックスによるデータの膨張への対応策が必要となる。圧縮に関しては、XMLはテキストデータであるので、その圧縮比率は、一般的なバイナリデータに比べて極めて高い事は注目すべき点である。
また、伝送速度は、今後とも飛躍的に発展することが予想されて問題はより小さく傾向にある。実際、XMLと同様のデータフォーマットであるHTMLに対して「データ圧縮」という議論が起こっていないことは周知のことである。
4.3 システム開発ツール
XML自体は、既存のインターネット標準技術を使用することができるが、現状では、XMLデータを既存の情報システムに接続する部分についての開発を各企業が行わなければならない。また、社内システムとして統一的にXMLが採用されるのは、やや時間がかかると思われる。つまり、直近の形態としては、XMLデータと社内情報システムを接続するツール(ソフトウェア)が必要となる。そのようなツールは、現状では、WebMethods社のB2B Integration Server (国内では、東芝アドバンストシステムが販売)や、インフォテリア社のXML Solution Componentsなど限られており、今後の充実が課題となっている。
4.4 EDIメッセージングのインターネットの特性への対応
メッセージベースでXML/EDIのトランザクションを実施した場合に、例えばSMTPではインターネットメッセージの特性として、(1)メッセージ送信の順番と到着の順番が一致するかどうか保証されない、(2)メッセージが到着することすら必ずしも保証されない、(3)ISPによってはメッセージ最大容量が制限されるなどの問題がある。これらについて、アプリケーション層での何らかの対策を行う必要がある。
5. XML/EDIの将来性
インターネットを使用した企業間取引は今後、爆発的な成長が予測されている。例えば、米フォレスターリサーチはその市場規模を、1998年の200億ドル程度だが、2002年には3,000億円を超えると予想している。その中で、XML/EDIは中心的な役割を担うであろう。特に、今後爆発的に広がると予想される、中堅、中小、SOHO企業のEDIへの参画においての標準的な技術となることはほぼ間違いない。つまり、今後の企業間データ交換にあたっては、XML/EDIへの早期の取り組みが肝要であると結論づける。
以上
【参考文献】
・ Requirements for Inter-operable Internet EDI (IETF Internet Draft) http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-ediint-req-06.txt
・ MIME-based Secure EDI (IETF Internet Draft)
http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-ediint-as1-09.txt
・ HTTP Transport for Secure EDI (IETF Internet Draft)
http://www.ietf.org/internet-drafts/draft-ietf-ediint-as2-03.txt
・ RFC 1767: MIME Encapsulation of EDI Objects (IETF RFC)
http://www.ietf.org/rfc/rfc1767.txt
・ RFC 2246: The TLS Protocol Version 1.0 (IETF RFC)
http://www.ietf.org/rfc/rfc2246.txt
・ RFC 2311: S/MIME Version 2 Message Specification (IETF RFC)
http://www.ietf.org/rfc/rfc2311.txt
・ RFC 2376: XML Media Types (IETF RFC)
http://www.ietf.org/rfc/rfc2376.txt
・ XML 1.0: eXtensible Markup Language (W3C Recommendation)
http://www.w3.org/TR/REC-xml
・ DOM: Document Object Model Level 1 (W3C Recommendation)
http://www.w3.org/TR/REC-dom-level-1
・ Namespaces in XML (W3C Recommendation)
http://www.w3.org/TR/REC-xml-names
・ The XML/EDI Group
http://www.xmledi-group.org/
・「XML/EDIの動向」NTTデータ新世代情報サービス事業本部 遠城秀和氏
・ CII標準ベースXML/EDI(XML/CII)の提案(ドラフト)
http://www.jipdec.or.jp/cii/cii_xml.html
・ 「国内外のEDI実態調査報告書 1998年度版」産業情報化推進センター
・ 日経ビジネス 1999年3月1日号 「e革命の波に乗れ」 p.20-p.37
(C) 1999 IPSJ, 平野洋一郎 (Pina Hirano), Infoteria Corporation.【禁無断転載複製引用】
日時: 1999年05月22日 00:00 | | TrackBack
